卵かからずソースが決め手 和洋折衷の岡山デミカツ丼
岡山市内で人気のデミカツ丼。言葉からはデミグラスソースをかけたカツ丼が想像されるが、卵はかからず、味の決め手のソースは店の個性が色濃く出る。「デミグラス」という洋食の仮面をかぶり、丼という和食の衣をまとう和洋折衷の人気者だ。
発祥と語り伝えられるのは1931年創業のカツ丼店の味司野村。「玉子とじカツ丼」と並ぶ看板「ドミグラスソースカツ丼」が元祖の味だ。
グリーンピースをのせた濃い黒褐色のソースはこってりして、こしあんを溶かしたようなきめ細かな食感だ。だが甘いとまではいかず、味噌の味とも違う。カツと地元朝日米のご飯の間には柔らかいゆでキャベツが挟まっている。
「初代佐一郎は東京で帝国ホテルのシェフに教えてもらったそうです」と社長の野村好子さん。夫で3代目の宏司さんをがんで亡くし、後を継いだ息子の大希さん(32)を支えてきた。宏司さんは闘病中、まだ高校生だった大希さんに味を伝受した。ソースづくりは鶏ガラを使い2、3日かける。「味は基本的に変わらないが、3代目は時代に合わせて甘さを抑えたようです」と好子さんは話す。
中華そばが人気のやまとは戦後間もない48年の開店時から「カツ丼」として出している。「ドミソース」は明るいブラウン系で肉のうまみを引き出す。ソースは店内メニューの玉子丼、ハヤシライス、オムレツなどにもかける。
中華そばのスープを全体の3分の1に使い、ケチャップ、ソース、みりんなどをブレンド。スープは創業した父親が洋食店で修業し、調理担当として中国からボルネオまで従軍した経験から生まれたもので、豚骨に昆布、削り節、しょうゆ、砂糖を組み合わせた。2代目店主の大和信一さん(71)は「ものがない時代でも手に入った食材のシンプルであきない味」という。
デミカツ丼はラーメン店で出すケースが多いが、うどん店でも人気だ。讃岐の男うどん富田町本店の丼のソースはうどんだしをベースにケチャップなどでトマト系の風味を出した。上にきざみキャベツや紅ショウガがのっていて色鮮やか。「クセを出すより、幅広い層に食べてもらうことを念頭に置いた」と池宗英生店長(41)。
和食の聖原田では生のサニーレタスを添え、ソースはコクがある。同店勤務34年の有松行広料理長(56)は「隠し味の赤味噌が決め手。カツは岡山特産の柔らかなピーチポークに絞った」と和食メニューに着地させた。
岡山の各店は得意の味付けで今も新境地を模索中だ。
岡山のデミカツ丼が脚光を浴びるようになったのは2010年前後だ。B級グルメブームに乗り、讃岐の男うどんも聖原田もメニューに加えたのはこのころだという。10年3月に地元音楽家らが集まってサンバ風、ボサノバ風の応援ソングを制作し、CD約100枚を売ったが、現在は休止状態。同年に有志が結成した「おかやまデミカツ丼応援隊」は今年9月にカルビーが中四国などで限定販売した「ポテトチップス おかやまデミカツ丼味」を監修するなどバックアップ態勢は健在だ。
(岡山支局長 田村雅弘)
[日本経済新聞夕刊2019年11月7日付]
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