では日本は昔、なぜ道路網が発達しなかったのか。理由は馬車がなかったためだとか諸説ありますが、ある人から「日本は陸運より水運だったからだ」と聞いてなるほどと思いました。

日本は海洋国家でもあるのですね。『文明の海洋史観』(川勝平太著)を読み、目から鱗(うろこ)が落ちる思いでした。海から見ると風景は全く違います。

2000年前後に文明論の好著がいくつか出ました。『文明の衝突と21世紀の日本』(サミュエル・ハンチントン著)もそれで、世界は8つの文明に分けられ、日本はその1つだと言います。『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著)は、グローバル化とICT(情報通信技術)革命による世界の変化を丹念な取材で活写しています。

しかし最近、世界を画一化する動きに対して、多様性を重視する議論が起きています。私は、文化や社会の多様性を尊重したうえで、共通する価値観や理念を持つべきだと考えます。長い歴史の中で、人間はどうあるべきかを追求して生み出された知的資産は、世界の共有財産だと思います。

横綱審議委員会委員長になり横綱の品格とは何かを問い続ける。

昨年春、大分県に出張した折、名横綱双葉山関の記念館を訪ね、自著の『新版 横綱の品格』を買いました。前に読んだ『相撲求道録』の改訂版です。

戦前、双葉山関は69連勝の記録を立てて敗れ、「いまだ木鶏(もっけい)たりえず」と友人に電報を打ちました。「木鶏」という言葉は『荘子』『列子』に出てきます。王から闘鶏を託されて訓練した男が、「木で作った鶏のように微動だにしなくなりました。もうどんな鶏も逃げ出します」と言ったという話です。

双葉山関はこれを陽明学者の安岡正篤氏から学びました。おごらず、常にいい先生について教わろうという姿勢だったので、品格があったのでしょう。

『老子』に「大器晩成」という言葉があります。私は、大器は晩年に成ると読んでいたのですが、本来は完成しないという意味だそうです。死ぬまで成長し続けるのが大器なのです。

(聞き手は森一夫)

[日本経済新聞朝刊2019年11月2日付]

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