男性のメーキャップ化粧品が人気らしい。華やかに飾るのではなく、健康的に見せて「できる男」を演出するという。土佐日記風に、女もすなるメークというものを男もしてみむとてするなり――。
男性用化粧品は化粧水や乳液など肌を整えるスキンケアに加え、昨年頃からファンデーションやアイブローなど色を付けるメーキャップ(メーク)製品が相次ぎ登場している。スキンケアを使う記者(53)もメークは抵抗があったが、話題の商品におっかなびっくり挑戦してみた。
東京・港の資生堂ジャパン本社を訪れ、男性用メーク化粧品「ウーノ フェイスカラークリエイター」(市場想定税別1180円)を体験する。スキンケアの保湿とメークの肌色補正の両方の効果がある「BBクリーム」と呼ばれる製品で、色が薄く初心者も手を出しやすい。当初10~20代狙いの商品だったが、30~40代にも好評で3~8月の売上高は想定の3倍だという。
男性の身だしなみセミナーで講師を務める同社ウーノグループの津倉徳真さんらに手順を習う。化粧水や乳液でスキンケアをしてからBBクリームを塗る。米粒程度の量を黒目の3センチくらい下と眉間、あごに少量ずつ乗せて顔の外向きに伸ばす。元は白色だが塗ると自然な肌色に変わる。心なしか肌が明るくなり、目の下のくまや、ひげそり跡の青みが目立たなくなった。
28歳の津倉さん自身、仕事のプレゼンや重要な打ち合わせなど「勝負どき」にBBクリームを使うそうだ。「健康的な肌は自己管理能力の現れ。仕事上の信頼感と自信にもつながる」と強調する。
「使用感も見た目も、BBクリームには化粧の感じはありません」(資生堂ジャパン美容戦略部の河村暁子さん)とのこと。実際、記者のメークに同僚の女性記者は「まったく気付かなかった」。
気をよくして、より本格的なメークに挑戦。ポーラ・オルビスホールディングス(HD)傘下アクロ(東京・品川)が昨年発売した「ファイブイズム バイ スリー」はファンデーションなど100種類以上。今年9月の購入客数は前年同月の8.1倍だ。
東京・丸の内の直営店「ビジョナリウム スリー」を訪ねた。同社オフィシャルメイクアップアーティストのHIROKIさんに「ステルス(隠密)メーク」を教わる。肌を明るく見せるスティック状のファンデーション(税別5200円)と眉をはっきりさせるアイブロー(ホルダー込み、同4400円)で、ひそかに健康的な肌を演出する。
ファンデーションは目の下から一筆書きでZを2回書くようにしてから額、鼻、口元に塗る。アイブローはペン先状の部分を眉の中央、外側、眉頭の順。慣れない作業に戸惑うが、眉がはっきりすると顔が引き締まった気がする。
モデルになってくれたポーラ・オルビスHD広報の増田拓也さん(35)は毎日ステルスメークを実践する。「仕事ができる男を演出したい」と、頬などに影を入れて精(せい)悍(かん)に見せているそうだ。記者が再び女性記者にメーク顔を見せたところ「言われれば、眉に付けているかなと思う程度」。
富士経済(東京・中央)推定の2019年の男性化粧品市場は前年比1.3%増の1196億円。大半は頭皮や頭髪用で、スキンケアやメークなど顔用は259億円と比率は小さいが、同6.1%増と高い成長が見込まれている。
国際イメージコンサルタントの安積陽子さんは「世界のビジネスパーソンは存在感を高める武器としてメークを活用する」と指摘。「日本は明治以降、男性が化粧をすべきでないとの価値観があったが、購入手段が増えればハードルは低くなる」とみている。
同僚に特に褒められることもなかったメークだが、普段と違う挑戦をしたことで少し自信が湧いてきた気がした。
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百貨店でお肌チェックも
伊勢丹新宿本店メンズ館(東京・新宿)の男性用化粧品売り場で「メンズコスメティクス肌測定サービス」を体験した。カメラ付きセンサーが10秒程度で「キメ」「毛穴」など5項目5点満点で評価し、最適な化粧品を薦めてくれる。利用者は20~60代で、評価の平均は3。記者はスキンケアはしていたのに、総合評価は2.6と予想より低くてがっかり。特に「毛穴」は詰まりが多いそうで2.3だった。お薦めのスキンケア化粧品は4点で4万円超。「できる男」への道は険しい。
(堀聡)
[NIKKEIプラス1 2019年10月19日付]

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