博物館って何? 時代で変わる役割、世界大会で議論
世界の博物館・美術館関係者による世界大会が9月、京都市で開かれた。120カ国・地域の約4600人が集い、社会の変化に対応した博物館の新たな役割について熱心に意見を交わした。
「『博物館行き』という言葉があるように、博物館は過去を蓄積し未来を志向しないイメージだった。だが現代の博物館は違う。社会に積極的、能動的に働きかけようとの熱気が会場にあふれていた」。9月1日から7日間、国立京都国際会館で開かれた国際博物館会議(ICOM)京都大会で組織委員長を務めた京都国立博物館の佐々木丞平館長はこう振り返る。
「定義」を大改訂
ICOMはパリに本部を置く非政府組織(NGO)で、3年ごとに世界大会を開いている。今回で25回目となり、日本では初の開催だ。参加者数は過去最多に上り、日本からは約1900人を数えた。
博物館とは何か。今大会の最大のトピックが1974年以来となる「博物館の定義」の大改訂だった。全体会合でスアイ・アクソイICOM会長は「時代の潮流に目を向け、社会の課題を解決する備えをしなければならない」と強調した。
ケニア国立博物館のジョージ・アブング元館長は「先進国は奴隷制度や植民地制度によって奪った文化遺産を今なお独占している」と現状に疑義を唱えた。豪メルボルン旧財務省ビル博物館のマーガレット・アンダーソン館長は「博物館は力強い『語り部』だが、物語の内容が一面的との声もある。より多様な物語が求められる」と指摘した。
ICOMの現在の規約は、博物館を「人類の遺産を教育、研究、楽しみを目的として収集、保存、調査研究、普及、展示する非営利の常設機関」と定義している。今大会では「民主化を促し、様々な声に耳を傾ける」「現在の紛争や課題に対処する」「全ての人々に遺産に対する平等な権利と利用を保証する」といった表現を盛り込む改訂案が提出されたが「時間を掛けて議論しよう」との声が上がり採決を先送りした。
議論で目を引いたキーワードが「持続可能な開発目標(SDGs)」。2015年に国連が採択した国際目標だ。また「地域への貢献」への言及も相次いだ。
政治や経済にも
「博物館と地域発展」と題した公開討論では経済協力開発機構(OECD)起業家・中小企業・地域と都市センターのラミア・カマル・チャウイ局長が登壇した。OECDとICOMが18年に共同製作した文化と地域開発に関する手引きを紹介して「地方政府の経済、都市開発、観光の各部局と文化を橋渡ししたい」と語ると、ピーター・ケラーICOM事務局長が「OECDと協力し共通の基盤を見いだしたい。博物館も政治や経済に目を向けなければならない」と応じた。
日本からの発表は100件を超えた。京都府京都文化博物館で開かれた分科会では、同館の村野正景学芸員が地元のまちづくり運動への参画について報告。「博物館が地域の意見交換の場となり、新しい技術やアイデアの源となるよう目指している」と語った。
18年、ブラジル国立博物館の火災で膨大な文化遺産が失われたこともあり、災害や被災地の復興に関する会合も注目を集めた。17年にハリケーンで被災したプエルトリコのポンセ美術館の事例が報告され、東北大学の小野裕一教授は災害リスクを意識して情報を共有する重要性を説明した。防災に向けて連携する「災害対策国際委員会」を新たに設けることが決まった。
今大会では「文化をつなぐミュージアム」がテーマとして掲げられた。最終日には「博物館は文化の結節点であるとの理念を徹底しよう」との決議文が日本から提案され、採択された。
佐々木館長は「今大会の議論を貫く大きな2つの柱となったSDGsや経済活動への貢献は日本の博物館では従来、深く考えられてこなかった視点だ。時代と共に博物館の概念が変わっているのを感じた。世界に歩調を合わせ意識改革が求められている」と語る。
(編集委員 竹内義治)
[日本経済新聞夕刊2019年10月8日付]
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