緊急避妊薬、入手の壁なお高く ネット処方解禁でも

2019/10/7付

望まない性行為などの妊娠を避けるために服用する緊急避妊薬について、市販薬化を求める声が上がっている。国は7月、オンライン診療による処方を部分的に解禁する指針を策定したが、処方を産婦人科医らに限るなど入手のハードルは高い。海外では市販する国が多く、医師や避妊を啓発する団体は「対面診療に行きにくい女性が、安心して避妊できる環境づくりが不可欠だ」と話している。

緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、性交渉から72時間以内に服用することで、8割以上の確率で妊娠を阻止できる。黄体ホルモンが働き、排卵を抑えたり遅らせたりして受精を防ぐ。吐き気や腹痛などが生じることもあるが副作用は少ないとされる。医師による処方が必要になる。

避妊などの啓発活動に取り組むNPO法人ピルコン(東京)の染矢明日香理事長は「性犯罪に遭ったケースに限らず、産婦人科での対面受診に抵抗を感じている女性は多い。国がオンライン診療にお墨付きを与えたのは前進だ」と話す。だが、今回の国の指針は制限が多いとして「利用が促進されるかとても疑問だ」と首をかしげる。

厚生労働省の検討会は7月、オンライン診療に緊急避妊薬を対象とする指針をまとめ、初診でも対面診療なしで処方箋を受け取ることを条件付きで認めた。当初は本格解禁が期待されたが、乱用や転売、性教育の遅れなど慎重論が相次ぎ、ストップがかかった。

結果、利用できるのは(1)医療機関から自宅が遠いケース(2)性犯罪などの影響で心理的に対面での診療に耐えられないケースに絞られた。処方できるのは、産婦人科医と厚労省が指定する研修を受けた医師に限定。薬局において、国が定める研修を受けた薬剤師による調剤を受けて面前で内服すること、服用の3週間後に妊娠の有無を確認するために対面診療を受けるといった要件もついた。

オンライン診療で、画面を通じて緊急避妊薬について説明するナビタスクリニック新宿の久住医師(一部画像処理しています)

年間約1千人に緊急避妊薬を処方しているナビタスクリニック新宿(東京・新宿)は国が指針をまとめる前の2018年9月からスマートフォンなどを使ったオンライン診療による処方を開始。これまで全国約300人が受診したという。

クリニックを運営する法人の理事長、久住英二医師は「医療機関が少ない地方で暮らしていたり、仕事などで受診の時間確保が難しかったりする人にとってオンラインの需要は大きい」と指摘する。ただ「国が定めた指針では利用できる人が限られる。海外のように薬局で市販化されればアクセスの問題は解決するはずだ」と訴える。

世界保健機関(WHO)は18年に「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性は緊急避妊薬にアクセスする権利がある」と勧告。緊急避妊薬を購入できるのは欧米を中心に80カ国を超える。「安価で売られ、無料で配っている国もある」(久住氏)という。普段の避妊方法として腹部などに貼る「避妊パッチ」や、皮下に埋め込む「避妊インプラント」など幅広い選択肢が浸透している。

一方、国内では公的保険の対象外で、11年に承認された「ノルレボ」の販売価格は1錠で1万5千~2万円程度。19年3月に国産ジェネリック医薬品(後発薬)が登場し、おおむね半額程度になったが、診察代を含むと依然として若年層には手が届きにくい額だ。

国内での市販化を巡っては、17年に厚労省が議論したが「時期尚早」として見送った経緯がある。性教育が欧米と比較して遅れていることや、乱用や悪用などの懸念が理由で、今回の厚労省の指針での議論と大きな構図は変わらない。

周知の課題もある。日本家族計画協会(東京・新宿)が、16年に男女約1200人から回答を得たアンケート調査によると、緊急避妊薬などの避妊法を聞いたことがあるのは全体の45.5%で半数を割った。

厚労省によると、17年度に国内で届け出があった人工妊娠中絶の件数は16万件超に上る。同協会の北村邦夫理事長は「性について相談できる窓口が少なく、思い悩んだまま中絶手術を繰り返してしまう女性も少なくない」と説明する。

市販化に向けた署名活動などを続けるピルコンの染矢理事長は「望まぬ妊娠を防ぐ権利が女性にはある」と強調。そのうえで「緊急避妊薬という最後の手段に、女性が主体的に安心してアクセスしやすい環境をつくるべきだ」と制度の見直しを求めている。

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全国の医療機関が検索サイト開設

日本家族計画協会は9月上旬、緊急避妊薬の速やかな入手をサポートするため、処方する医療機関の検索サイトを開設した。スマートフォンやパソコンなどの位置情報をもとに、全国の約1500にわたる医療機関から現在地に近い場所を簡単に調べることができる。

同協会の北村理事長は「緊急避妊薬は服用が早いほど効果が見込める。自宅周辺だけでなく、土地勘のない旅先などで必要になるケースも想定して作成した」と話している。

検索は地名、駅名による入力でも可能で、スマートフォンなどの位置情報を利用して現在地から近い20施設が表示される。電話番号や診察時間が確認できるほか、休診の可能性がある場合は、医療機関名のワキに「!」のマークを付けて分かりやすくした。

同協会によると、1日に約600件のアクセスがあるといい、北村理事長は「避妊へのアクセス改善の一助になれば」と願っている。検索サイトは同協会のホームページからアクセスできる。アドレスは、https://www.jfpa-clinic.org/s/

(佐藤淳一郎)

[日本経済新聞朝刊2019年10月7日付]

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