映画『アド・アストラ』 「闇の奥」の父に会う旅
いまやすぐ近くに来ているかもしれない"人類が地球外知的生命体や資源を求めて宇宙へ旅立つ"時代の話。題名には「星の彼方(かなた)へ」の意味があるそうだ。
核実験の余波を思わせる強いサージ電流が地球を襲い、命を失いかけた宇宙飛行士のロイ・マクブライド少佐(ブラッド・ピット)は、アメリカ宇宙軍の上官から初の太陽系外有人探査計画《リマ計画》の司令官だった彼の父、クリフォード・マクブライド(トミー・リー・ジョーンズ)の生存を教えられ、月をへて火星に向かう極秘救出作戦を命じられた。死んだと思ってきた父が生きていたのだ。
ロシア移民の家族が題材の『リトル・オデッサ』(1994年)で監督デビューしたジェームズ・グレイが監督。世界初の原子炉を作った人物の核分裂実験についての文章を読み、そこにジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」を重ねるなどして脚本を書き、製作もした。
旅の途中、宇宙船内で凶暴化した実験動物に遭遇、月では無法者に襲われる。そんな衝撃があっても宇宙は静寂と孤独の世界だ。火星に到着したロイは宇宙軍の用意した文章を海王星にいる父に向けて読まされるが、その裏に彼を葬る策謀があることに気づいて強引に父の許(もと)へと向かう。
ロイには父との間に心が通い合った思い出はないが、用意された文を読むうちに直接会いたいという思いが湧き上がる。遠く離れた宇宙の果てで孤独の時を過ごす父。父に会う旅は、宇宙飛行士として生きるためにロイが抑えつけてきた自分を解き放つ旅でもある。
静寂と孤独の中で自分を見つめなおすロイは父が任務に執着するあまり、孤高の王国を築いたことを知った。異郷での孤独が彼を変えたが、ロイはまた別の道を行く。この父と子の姿が男子の本質なのか。コンラッドの「闇の奥」を愛するのはおおむね男たちだ。2時間3分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2019年9月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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