窓の汚れ落としは雨の日 省略家事で高齢者も楽々
生活研究家 阿部絢子
家事は煩雑な作業の連続だ。掃除、洗濯と名のつくものは分かりやすいが、名も無き作業も家事に入る。例えば購入後の食材を冷蔵庫に入れる、散らかったテーブルを片づける、冷凍する食材を包装するなど。これらの作業を含めると、家事は膨大になる。
最近乗り合わせた70歳代とおぼしきタクシードライバーの男性に、「ご家庭で実行されている家事はありますか?」と聞いてみた。すると、待っていたとばかり、話してくれた。
「これまで、全て年上の妻まかせだった。だけど近ごろは、自分がご飯の支度、洗濯をしている。実際やって初めて分かったけど、家事は大変だなあ~」
彼によると高齢の妻は洗濯物を運ぶ、干すなどの体を使う家事が困難になった。竿(さお)の高さを低くし、洗濯物は数回に分けるなどあれこれ工夫をするも、体力的に難しくなっているそうだ。
私も同感だ。主に手を使う炊事などはまだいい。窓ガラス磨き、カーテン外し、エアコン掃除、天井照明の取り替えなど、高い所の家事はおっくうになった。踏み台に乗っての仕事だから、年齢を重ねると体力、握力は衰え、足の踏ん張り力も利かなくなってくる。
前に、照明掃除でカバーを外した際に、天井から照明を落としたことがある。踏み台から転倒せずにすんだが、思わずゾッとした。家事代行に頼む手もあるが、支出を考えると辛い。
その時私は、家事内容を変え、省けるものは省くべきだとの結論にたどり着いた。特に、窓ガラス磨き、天井照明掃除、カーテン取り替えと洗濯など、高所での家事はしないことにした。
天井照明の掃除は、カバー外しで失敗したので、家中の照明カバーを外した。掃除は天井ブラシでホコリを払い落とすだけに変更した。カバーがなくなり、照明も明るくなった。
また、窓ガラスは外壁と考え、掃除方法を変えた。雨の日に汚れ落としだけをする。雨を利用し、傘を差しながら、スクイージーを持って上から下へとこするだけ。これをもって窓ガラス掃除とする。雨の日に都合がつかず、ガラスの汚れが落とせなくとも、無視を決め込み平気でいることにした。
その後、カーテンについても再考した。これまで夏と冬の季節の変わり目に取り替えと洗濯をしていた。季節家事と決めていたが一切やめた。カーテンからブラインドに変更したのだ。家事負担がスッと解消した。
これから先の持ち時間を思うと、煩雑な家事は時短だけで対処できない。家事そのものを減らさなければ、との危機感すら持つ。私は高所の家事を省く決断をしたが、暮らしは千人、千色。暮らしを吟味し、変更・省略を進め、自分のできる家事を選ぶ。暮らしを楽しむ有効時間を手に入れるべきだ。
薬剤師の資格を持ち、洗剤メーカー勤務後に消費生活アドバイザーに。家事全般や食品の安全性の専門家として活躍。「ひとりサイズで、気ままに暮らす」(大和書房)「ひとり暮らしのシンプル家事」(海竜社)など著書多数。
[日本経済新聞夕刊2019年7月23日付]
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