お寺にようこそ カフェやビアガーデンでファン開拓

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お寺が変わっているらしい。カフェやビアガーデン、ビルの中の分院。「寺離れ」が指摘される中、従来のイメージにとらわれず、現代に合う姿を模索しているようだ。

朝日が差し込むカフェ。お盆には、おかゆ、サトイモ田楽、豆腐のゆずあんかけなどが所狭しと並び、どれから食べようか目移りしてしまう。築地本願寺(東京・中央)で朝8時から営業する「Tsumugi」の「18品の朝ごはん」(税抜き1800円)。寺のご本尊、阿弥陀仏の「第18願」にちなんだメニューは1日110食限定で、毎朝整理券を配る人気ぶりだ。

ママ友らしき女性グループや、出勤前のビジネスパーソンら幅広い層が来店する。午後9時まで営業し、夕方からはアルコール類も提供する。月に約1万人が訪れ、今まで寺になじみの薄かった人との接点にもなっている。

この日初めて来店した福岡市の女性(54)も「18品の朝ごはん」を注文した。仕事や観光で近くを通る度に、国の重要文化財に指定される本堂の存在が気にはなっていたという。「カフェをきっかけに境内に入ることができた」と、食後に本堂も訪れていた。

築地本願寺のカフェ併設は、創建400年の2017年に始めた改革の一環だ。気軽に立ち寄れるよう境内に案内所を整備した。僧侶が悩みを聞く「よろず僧談」から生前整理などの「終活サポート」までワンストップで請け負う会員制度も構築した。改革の背景には「環境変化に対応できなければ、限りなく衰退に向かっていくとの危機感がある」(安永雄玄宗務長)。

「飲みニケーション」の場を提供する寺もある。天恩山五百羅漢寺(東京・目黒)が17年から夏のビアガーデンを始め、今年も7~8月に計5日間オープンする。テーブルが並ぶ中庭を都重要文化財の仏像146体が取り囲む。

つまみやコース料理は敷地内の和食店から運び、近隣企業の打ち上げなどで予約が埋まる。佐山拓郎住職は「寺に入ることへの抵抗をなくしたい。仏像の魅力にもふれてほしい」と狙いを話す。

都市化の進展や価値観の変容に伴い、寺が遠い存在になっている。公益財団法人全日本仏教会と大和証券が17年に公表した調査では、仏教信者を除くと「住職と会話の機会がない」との回答が都心と地方でそれぞれ4割に達した。仏教信者でも2~3割いた。

状況打開に向けた地方発の取り組みも。奈良市の十輪院は14年、同市内の商店街に続き、東京・神保町の大通り沿いに分院「みんなのお寺」を開いた。1階に飲食店が入るビルの2階に入居し、フロアに線香の香りを漂わせる。院内には本尊がまつられ、障子に仕切られた半個室が並ぶ。

写経や先祖供養の相談は有料だが、僧侶への「人生相談」は無料。本院から僧侶8人が1週間交代で“出張”し、人間関係や仕事の悩みに耳を傾ける。月に延べ約100人が門をくぐり、半数以上が30~40代の働き盛りだ。橋本純信住職は「ああしなさい、とは言いません。話をとにかく聞く」。訪れる人が気持ちを整理し、自ら解決の糸口を見つけるよう促している。

東京で分院を持つ経済的な負担は小さくない。神保町の賃料相場も決して低くないが、人通りを重視した結果の立地だ。「東京は地方からも大勢の人が集まる。本院のブランドイメージが上がる効果は小さくない」(橋本住職)

築地本願寺の安永宗務長は「信仰心のある身近なファンを増やしていきたい」と話す。人が集まる寺にするにはどうすればよいか。新たな取り組みは今後も広がるだろう。

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横ばい7.7万ヵ所、経営厳しく

文化庁の宗教統計調査によると、17年12月末時点で全国の寺院は7万7003カ所。同時期のコンビニエンスストア(5万5322店)より多い。08年12月末に比べ0.6%の減少にとどまる。一方で経営は厳しく、浄土真宗本願寺派が15年に約1万寺を対象に実施した調査(回収率68.1%)では、年収300万円未満の寺は45%にのぼった。

「寺院消滅」の著書もある僧侶の鵜飼秀徳さんは「経営難でも解散が進まないのは、清算手続きが煩雑で、伽藍(がらん)や無縁墓の処理など解体費用を負担できない寺も多いからだ」と指摘する。住職不在などで宗教活動を停止した寺院も2000カ所以上あるとみられる。寺院存続にも活動を支える「ファン」の確保が欠かせないようだ。

(天野由輝子)

[NIKKEIプラス1 2019年6月29日付]

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