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先生はロボット 塗り絵感覚でプログラミング体験 スイス連邦工科大学ローザンヌ校

2019/6/26付 日本経済新聞 朝刊

ロボット「ティミオ」でプログラミングを学ぶ

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)が開発した、子どもがプログラミングを楽しく学べる「ロボット先生」が世界各国の学校から注目を集めている。IT(情報技術)が仕事や生活の仕方を大きく変える中、幼少期からデジタル技術を習得する必要性は高まっている。何を教えるかだけでなく、どう教えるか――。EPFLは学校現場での教育方法の研究に力を注ぐ。

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「前方の下のセンサーが反応すると、後ろに戻る指示にしましょう」。6月中旬、雄大なEPFLのキャンパスの研究室に行くと、生みの親であるフランチェスコ・モンダダ教授がロボット先生「ティミオ」を見せてくれた。

2つの車輪が付いた四角いティミオは手のひらサイズで、障害物を避けたり人間の手の動きに追従したりする。プログラムはコードを書くのではなく、パソコンの画面で塗り絵のような感覚でドラッグとクリックだけでできる。試しに動かしてみると、ティミオはプログラムに従って前進し白い画用紙にたどりつく直前で赤いセンサーが光ってバックした。

ティミオの動きに興味津々の子どもたち

今、どのプログラムがどのように実行されているかが一目で分かる。「見える化」しているため子どもが遊び感覚で学べるのが特徴だ。もちろん、指示した動作のコード自体もパソコンに表示することができる。

ジュネーブ市内の小学校「トレンブリースクール」のホネゲル・ジュリエ先生(31)もティミオを教材として活用している。教室では先生が指導しなくても、子どもたちが意欲的に色々な動きを試しているという。「機械がどのように作用するかを簡単に理解できる最適な道具だわ」

ティミオは数年前からNPO団体を通じて販売を始めた。価格は1台170スイスフラン(約1万8千円)でドイツやスイスの小学校などからの反響は大きく、これまで5万個以上の注文があった。日本での販売にも乗り出している。

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モノがインターネットにつながるIoTなど社会は急速に変化し、交通や病院など身の回りの生活はデジタル化している。一方、知らず知らずのうちに個人情報が流出するなどの懸念も増す。モンダダ教授はティミオを開発した背景について、「優れた技術者や科学者を育成するのでなく、どのような原理原則で動くのかを理解し、社会への対処能力を高めるのが目的だ」と説明する。

英タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の2019年のランキングによると、世界1250以上の大学のうち、EPFLは35位。コンピューターサイエンスや建築で有名だが、近年は教育分野での存在感も高まっている。

最近は最先端の教育方法を研究するセンター「LEARN(ラーン)」を開設した。例えば、EPFLの学生の成績などのビッグデータを集め、卒業できる確率が極端に下がる分岐点を把握。その層にいる学生に特別講義をするなどの教育の改善に取り組んでいる。教育にテクノロジーを活用するスイスの新興企業も参画して、初等教育の教師の研修プログラムも開発している。

EPFLでは卓越した才能を持つ12~18歳程度の一部の生徒向けに、特別な数学コースも開講している。地元メディアでは「天才児の学校」などとも呼ばれ、6年間の受講後に諸条件を満たせばEPFLの2年生に飛び級することができる。EPFLの教育方法のノウハウは世界有数の工科大学の競争力を支えている源泉かもしれない。

(ジュネーブ=細川倫太郎)

[日本経済新聞朝刊2019年6月26日付]

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