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歌舞伎ではじける三谷幸喜節 「風雲児たち」基に新作

2019/6/11付 日本経済新聞 夕刊

劇作家の三谷幸喜が作・演出する新作歌舞伎「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」が歌舞伎座(東京・中央)で幕を開けた。ユーモアあふれる現代劇で知られる三谷の歌舞伎演出は13年ぶり2回目となる。

5月14日、東京・世田谷のけいこ場に足を踏み入れて、笑ってしまった。四つんばいの役者が10人ほど、群舞のような動きをしたり、転げたり、コミカルに動き回っている。

「歌舞伎初の犬ぞり。シベリアンハスキーでやります」と、三谷はいたずらっぽく言う。吹雪の中、ロシアの雪原を6人の登場人物が犬ぞりで滑走する。スペクタクルなシーンにもケレンと笑いがたっぷりだ。

江戸中期、船が難破してアリューシャン列島に流れ着き、苦難の末帰国を果たした大黒屋光太夫らの物語だ。17人は仲間を失いながらロシアやオホーツクなどを10年あまり転々とする。

原作はみなもと太郎の歴史長編漫画「風雲児たち」。三谷は20年以上前、光太夫の場面を読み「歌舞伎になるな」と直感した。

それは男2人の別れ。凍傷で片脚を失い、ロシアに残ると決めた庄蔵に、光太夫がロシア流の口づけをして走り去る。庄蔵は本心では一緒に帰国したい。泣き叫ぶト書きが「義太夫節で聞こえてきた」とひらめいた瞬間を振り返る。

■絞り上げた表現

光太夫役の松本幸四郎から歌舞伎演出の声がかかり、腹案を打診。原作を読破した幸四郎は快諾し、企画が動き出した。

三谷が考える「歌舞伎らしさ」とは何か。今回は登場人物の「煮詰め方」をより強くしたという。それぞれの決心や迷いを表現するのに「ギューッと力を込め、雑巾ならカラカラになるまで絞った『密度』のようなものを与えている」。

例えば、船上で栄養失調の仲間が倒れた時、普段ひょうひょうとしている新蔵が、苦しげに「昆布だ!」と叫ぶ。昆布は陸が近い証拠。実際は昆布などないが、死の淵の仲間に嘘をついて元気づけようとする。庄蔵も気づき、必死の面持ちで「昆布だ」と同調する。

原作にはない場面だが、悲しみや優しさ、死にゆく者の安らかな表情がドラマチックに舞台を彩る。庄蔵役の市川猿之助に、三谷が「あそこ歌舞伎っぽいですよね?」と尋ねると力強くうなずいた。こうした感情を揺さぶるシーンが随所に盛り込まれる。

■プレッシャーない

演出について語る三谷

三谷が歌舞伎演出を手がけるのは13年ぶり2回目。PARCO劇場での前作「決闘!高田馬場」に対し、今回は本丸の歌舞伎座だがプレッシャーはないと笑い飛ばす。「逆に何をやっても歌舞伎になると思い、自由にやっている」

幸四郎、猿之助、片岡愛之助らも音楽や動きのアイデアをどんどん出したという。「僕は歌舞伎がよくわからないので、助けて頂いている。『ここはポテチン(義太夫三味線を用いた演出)だね』とか、皆で作っていく感じ」。確かにけいこ場は和気あいあい。愛之助は「事件が毎日起こるんですよ」と笑う。

見せ場は十二分。全員ひっくり返るギャグがあれば、ロシアの女帝エカテリーナも演じる猿之助が豪華絢爛(けんらん)なドレスで登場する。スーツ姿で舞台回しを務める尾上松也がまた愉快だ。歌舞伎の知識がなくても楽しめる演目になった。

三谷ワールド全開のドタバタ人情喜劇。不思議と歌舞伎らしく見えてくる。25日まで。

(佐々木宇蘭)

[日本経済新聞夕刊2019年6月11日付]

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