映画『荒野にて』 孤独な少年の心の成長
引っ越しを繰り返す父、幼い息子を残して家を出た母。孤独な少年は殺処分される馬を連れて家を出た。
熟年の夫婦仲に亀裂を生じさせた夫への妻の怒りを繊細に描く英国映画『さざなみ』の監督アンドリュー・ヘイの新作は、舞台を米国に移し、自分の居場所を求めて荒野を行く15歳の少年の孤独を見つめる。
音楽活動もする米国の作家ウィリー・ヴローティンの小説「リーン・オン・ピート」(映画の原題と同じ)が原作。時間の経過で変化する陽射(ひざ)しの下、美しさが不安や恐怖に表情を変える荒野を少年はためらうことなく進む。
父親が遊び相手の女の夫に襲われ、重傷を負ったときのチャーリー(チャーリー・プラマー)は、厩舎のオーナーから競走馬リーン・オン・ピートの世話を任されて働いていた。
そんなチャーリーに女性騎手のボニー(クロエ・セヴィニー)は「ペットじゃないの。ただの馬よ」と教えるがピートはいつも独りぼっちのチャーリーにやっとできた友達だ。入院中の父が死んだとき、廃馬として売られるピートを輸送トラックに乗せて運びだした。
米国北西部の荒野をワイオミングにいるらしい伯母を求めて進むチャーリーは現代米国の小さな町の決して豊かではない生活の中であきらめと共に生きる人々に出会う。でも彼はあきらめない。映画は父親と二人暮らしのチャーリーが子供らしい半パンツでジョギングする姿で始まり、やがて長いズボンで走る姿を見せて終わるが、その間の15歳の少年の心の成長をみずみずしく演じたチャーリーはヴェネチア国際映画祭の新人俳優賞を受賞した。
チャーリーがついに見つけた自分の居場所で「学校へ行きたい。フットボールをしてもいい?」と甘え、口許(くちもと)に笑みを浮かべる様子に、やっと子供の自分に戻れた彼の安堵を見た。2時間2分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2019年4月12日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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