スーパーフード「藍」、染めても食べても魅力 徳島
「藍」といえばジャパンブルーと呼ばれる濃い青色を思い浮かべる人が大半だろう。かつて染料「阿波藍」の一大生産地として隆盛を誇った徳島で、「藍を食べて健康になる」という動きが広がりつつある。藍の葉や茎を粉末状にして練り込み独特の青みを出した食品は徳島にしかない土産物としても注目が集まる。
タデ科の植物である藍の葉は苦みやえぐみが強く、一般に生食には向かない。だが、乾燥させた葉は抗酸化や殺菌作用が認められており、古くから薬の原料に用いられてきた。これに着目したのが薬局を展開するボン・アーム(徳島市)の近藤ルミさんだ。「藍をスーパーフードとして普及させる」と2013年ごろから食品開発に乗り出した。
オリジナル商品として開発したのが藍の葉を使ったハーブティーや乾燥させた葉や茎の粉末を練り込んだビスケット「藍びすこってぃ」など。ビスケットは固焼きでさくさくした食感が特徴だ。色はやや青っぽいが藍の味は感じず、控えめな甘さに仕上がっている。同社の藍を使った食品「藍食人」シリーズは徳島空港や徳島市の阿波おどり会館の土産物店で購入できる。
藍の生産が盛んだったことから地名が付いたといわれる徳島県藍住町。ここで16年にオープンした農園直営レストラン、旬感ダイニングアクリエでは生パスタやパンの生地に藍粉を混ぜ込んだメニューが食べられる。
注文したのは、藍の粉末入り手打ち麺を使ったズワイガニと季節野菜のクリームパスタと、藍フォカッチャ。パスタは深い緑色、フォカッチャも藍粉末が練り込まれているとはわからない。味も藍を感じるほどではない。同店では「健康志向の女性を中心に注文する人が多い」という。
徳島のお土産として定着させようと、藍を使用した菓子も登場した。和菓子店、はりまや徳正(徳島県つるぎ町)は生地に藍粉を練り込んだ藍ういろうと藍どら焼きを販売している。どちらも緑がかった色で、食べるとほんのり藍の香りがする。「土産物としてだけではなく、地元の方が繰り返し買ってくれる」ほどの人気商品という。
フランス料理でも藍は味わえる。リゾートホテルのアオアヲナルトリゾート(旧ルネッサンスリゾートナルト、徳島県鳴門市)では料理やソースに藍粉をふんだんに使用した阿波藍ディナー「AwaAi」を提供する。宿泊者以外でも食べられる。
少しずつではあるが徳島で広がってきた食べる藍。仕掛け人の近藤さんは「様々な食品での利用や献立を提案し、需要を広げたい」と語る。
氾濫を繰り返した吉野川がもたらす肥沃な土壌と温暖な気候が良質な藍の栽培に適していたため、徳島は藍の生産が盛んだった。特に「阿波藍」は高級天然染料として全国から引き合いが多く、江戸時代から明治時代にかけて徳島には富が集中した。だが安価な化学染料が普及すると藍の需要は一気にしぼみ、藍の生産はピーク時の1000分の1以下にまで減少する。それでも今なお徳島は藍の生産では国内トップ。藍を地域の伝統産業として再興させたいとの県民の思いも藍の食品への活用の背景にある。
(徳島支局長 長谷川岳志)
[日本経済新聞夕刊2019年4月11日付]
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