ロープウエー・ゴンドラで空中散歩 都市部で再浮上

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スキー場や観光地で活躍するロープウエーやゴンドラ。かつては都心でも街のシンボルとして親しまれていた。今、再び都市部の交通手段として注目を集めている。歴史をひもといてみよう。

そもそもロープウエーとは何か。山あいをロープでつなぎ、乗り物で移動する仕組み自体を「ロープウエー」、ぶら下がっている車両を「ゴンドラ」と呼ぶと思っている人が多いかもしれない。記者(35)もそうだった。

「実は2つは仕組みが異なる別の乗り物」と教えてくれたのは「絶景!日本全国ロープウェイ・ゴンドラ コンプリートガイド」(扶桑社)の著者、中島信さん(62)。ロープウエーもゴンドラも鉄道事業法で「索道」と呼ばれる交通機関の一種だという。

ロープウエーの正式名称は「複線交走式普通索道」。停留場間を結ぶ「支索」というロープが2本で、「搬器」と呼ぶ車両2台がつるべ式に往復する。車両も大きく、一度に最大120人ほど運べるのが特徴で、多くの客が大型バスなどで乗り付ける観光地に多い。

一方、ゴンドラは「単線自動循環式普通索道」と呼ばれる。1本のロープを環状にして複数の車両を運ぶ。定員は6~10人ほどで、少人数グループが多いスキー場などが主だ。「索道は奥が深く、少し勉強すると旅行が楽しくなりますよ」と中島さん。これからは注意して見てみよう。

日本初の近代的な索道が登場したのは1912年。大阪の初代通天閣だった。隣接する遊園地内のビルとロープでつなぎ、電力で動くロープウエーだった。ただ「遊園地の乗り物のようなもの」(中島さん)。その後27年に人の輸送を目的とする設備が三重県にできた。これ以前にも山あいにロープを張ってカゴで移動する「野猿」や「吊舟」と呼ぶ仕組みはあったが、いずれも人力だった。

戦前に10路線ほどが開業したが、戦時の金属供出令などで大半が姿を消した。戦後、再び日の目を見たのは東京・渋谷。51年、渋谷駅近くの東横百貨店(当時)と近くのビルをつなぎ、「空中ケーブルカー」と称した「ひばり号」が開通した。詳細は不明だが、資料などではひばり号は子供用だったといい、百貨店屋上から近隣ビルの屋上に向かい、降りることなく引き返したという。家族連れでにぎわい、渋谷のシンボルとして愛された。

そもそもロープウエーやゴンドラはスキーの本場、欧州で発展した。欧州に比べ土地が狭く急斜面の山が多い日本では、滑車や減速機などを小型化した設備が全国各地に広がった。50年代のレジャーブーム、80年代のスキーブームが背中を押し、最盛期は200以上が空中の足として活躍。その後、老朽化やスキー場の閉鎖などで今は約170まで減っている。

海外では、都市部の交通渋滞を減らす目的で、ロープウエーやゴンドラを使う街もある。日本でも横浜市が「YOKOHAMA AIR CABIN(仮称)」計画を発表した。都市型の“空中散歩”に注目が集まる。計画では2020年までにJR桜木町駅前―新港ふ頭までの約630メートルを約3分で結ぶ。街や海を空から楽しみながら移動できる交通サービスを提供し、観光資源にする狙いがある。

「細くて強い柱など、コンパクトなロープウエーやゴンドラを作る技術はさらに発展している」と安全索道(滋賀県守山市)の森川和昭さん(54)。狭い都市部でも十分に建設できるという。もちろん、強風に弱い、車両への電力供給が難しく空調設備を整えにくいなど今後の課題もある。ただ、そう遠くない将来には、市民の日常の足として都市型索道が活躍する日がくるかもしれない。

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南米では日常生活の足

渋滞や交通事故も減ったという(ボリビア・ラパス)

ブラジルのリオデジャネイロやボリビアのラパスなど、すり鉢状の地形にある都市では、索道が市民の日常生活の足として活躍する。

2015年夏、記者はラパスを訪れた。窓口で切符を買い、改札口で係員に見せて乗り込む。14年に開業したばかりの真新しく清潔な設備。複数の路線があり、停留場というよりも、近代的な駅舎という印象だった。

観光客のほか、買い物袋を下げた地元の住民らもちらほら乗り降りする。乗り合わせた高齢女性は「子供の通学や買い物がとても楽になった」と笑顔で話す。従来の道路は狭く曲がりくねっており、渋滞や交通事故が長年の懸案だったそうだ。索道が登場したことで、それも減ったという。

(宇都宮想)

[NIKKEIプラス1 2019年3月23日付]