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「男はつらいよ」22年ぶり新作 寅さんの半世紀映す

2019/3/11付 日本経済新聞 夕刊

山田洋次監督が22年ぶりの寅さんシリーズ「男はつらいよ お帰り寅さん」を制作中だ。第1作から50年目の第50作。さくら、博、満男らも年齢を重ね、時の流れが映る。撮影現場を訪ねた。

東京・成城の東宝スタジオに、懐かしいセットが組まれていた。寅さんこと車寅次郎(渥美清)が毎回帰ってきた葛飾・柴又、帝釈天参道の「くるまや」だ。

さすがに時は流れた。団子屋だった店はしゃれたカフェになり、表に「喫茶・甘味処くるまや」の看板。裏の印刷工場はアパートに建て替わっている。寅さんのおいちゃん、おばちゃんが住んでいた店に、今は妹さくら(倍賞千恵子)をはじめ諏訪家の人々が住む。

それでも店の奥にある茶の間や仏間、台所、急な階段や狭い庭は昔のままだ。建具の一部は柴又の寅さん記念館に保存してあったものを運び込んだ。今にも寅さんが帰ってきそうだ。

■さくらに白髪も

演出する山田洋次監督

昨年11月9日。このセットでは初の撮影とあって、緊張感が漂っていた。

「ただいま」。満男(吉岡秀隆)が帰ってくる。「遅い」と娘のユリ(桜田ひより)。「甘えるように言うんだよ」と山田が指示する。今日は満男の亡き妻の七回忌。さくらとユリは台所で支度をしている。

茶の間には黒ネクタイの博(前田吟)と満男の義父(小林稔侍)。会社員だった満男が小説家になったことを話している。そこに印刷工場のタコ社長の娘、朱美(美保純)が割り込む。

「さっき本屋に行って満男君の本買ってきたの」

書名を「げんえいおなご」と読む朱美。「じょし」と満男。このセリフはこの日加えた。山田が口立てで伝え、美保と吉岡がやってみる。山田が笑う。

「いいのよ飾っとくだけで。人が来たら自慢するの。諏訪満男は子供の頃、あたしの弟分だったのよって」

1969年のシリーズ第1作「男はつらいよ」でさくらと印刷工の博が結婚し、生まれた赤ん坊が満男。だから満男は今年50歳。さくらは白髪まじりのおばあさんになった。

遅れてやって来たのが今の御前様(笹野高史)。笠智衆演じる先代はいないが、寺男の源公(佐藤蛾次郎)は昔のまま。半纏(はんてん)に野球帽、腹巻きにジーンズだ。

演じる俳優が世を去った登場人物の姿はないが、マドンナのリリー(浅丘ルリ子)を含め俳優が健在の人物はそのまま年をとって、ここにいる。倍賞は「またさくらに会えると思っていなかったが、衣装をつけてセットに入るとホッとした。それなりに年をとったさくらだけど」と語った。

11月6日は柴又駅で撮影。ベンチに座る倍賞と吉岡がホームの女子高生たちを眺めながら、満男の初恋の人、泉(後藤久美子)の思い出を語りあう。「ヨーロッパにいるんでしょ」「そうだよ」。カメラは駅を慈しむようになめていく。

その後藤も23年ぶりに女優に復帰した。ジュネーブの自宅に山田の手紙が届き「はい、と二つ返事で来た。当時のスタッフも何人もいて、温かく迎えられた。心地よい現場です」と後藤。泉は国連難民高等弁務官事務所の職員になっている。

映画はそんなふうに登場人物の現在の姿と過去の49作品の姿とを織り交ぜながら、この半世紀を映し出すという。山田はこう語る。

■寅さんは行方知れぬまま

「50本近い作品を折に触れて見ていると、その時代の色が不思議に映っている。微妙な世の中の変化がわかる。これを編集すれば50年の日本の歴史が見えてくるんじゃないか」

「渥美さんは亡くなったけれど、ずっと生きてきた俳優もたくさんいる。倍賞さん、前田さん、吉岡さん。この人たちを映しているとまるでドキュメンタリーみたいに50年間が映せる」

寅さんは行方知れず。生きているのか、死んでいるのかもわからない。「もしかしたら、さくらは寅さんの亡霊に会っているのかもしれない」と山田は言う。

生身の寅さんが最後にスクリーンに現れたのは95年の第48作「男はつらいよ 紅の花」。阪神大震災で被災した神戸・長田のボランティアとしてだった。

「平成の窮屈な管理社会で、寅さんの活躍の場は少なくなった。でも震災で秩序が崩れちゃうと、寅みたいな人間は役に立つ。被災地で大活躍したんじゃないかな。そしてある秩序ができるといらなくなり、寂しく去っていく。象徴的だね」

撮影を終え、仕上げ中。12月27日公開。

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2019年3月11日付]

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