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訪問マッサージで寝たきり防止 医師同意書で保険適用

2019/3/6付 日本経済新聞 夕刊

自宅や施設でマッサージの施術を受ける医療保険適用の「訪問マッサージ」の活用が注目を集めている。体にまひや痛みがあり自力で通院できない患者は、リハビリ不足で身体機能が衰えて寝たきりになりやすい。施術師らは「不安なく在宅療養を続けるために役立ててほしい」と話す。

脳出血の後遺症でまひがある男性の自宅で訪問マッサージを行う山本伸夫さん(千葉市)

「さあ、5秒間立ちましょう」「今日はずいぶん動きがいいですね」。2月下旬、千葉市の民家で施術師の山本伸夫さん(42)が、この家に住む男性(76)に声をかけながらマッサージを続けた。男性は15年前に脳出血で倒れ、右半身のまひと言語障害が残り、自宅で妻(73)が介護を担う。

血圧測定から始まり、こわばった筋肉を緩める手技のほか、ベッドから立ち上がる練習や、車いすを乗り降りする訓練まで間断なく約30分間行う。一通りのメニューを終えると、男性は疲れをにじませながらも満足そうな笑顔を浮かべた。

山本さんを派遣するのは綜合警備保障(ALSOK)グループで訪問医療マッサージを提供するケアプラス(東京)。男性は病院を出て自宅介護が始まった時、ケアマネジャーから訪問マッサージをすすめられ、これまで週1回のペースで約14年間利用を続けている。医師の同意書に基づき健康保険治療が認められ、費用は1回数百円で済む。

妻によると、退院後は寝返りも打てずほぼ寝たきりだったが、訪問する施術師のアドバイスを基に毎日リハビリを重ねた。今では自力で車いすに乗り、日中は体を起こして座位で過ごす時間が長いという。妻は「訪問してもらう日は体を動かすので疲れてぐっすり眠れている」と話す。

このように自宅にいながら保険適用での訪問マッサージを利用する患者が増えている。「筋まひ」「関節拘縮」といった症状の治療が対象で、脳血管疾患や骨折の後遺症のある人のほか、変形性関節症やパーキンソン病、小児脳性まひなどで治療を受ける患者もいる。介護保険と併用できるため、高齢者の利用が多いという。

日本訪問マッサージ協会(東京)の藤井宏和代表によると、退院して在宅に復帰した場合の課題は、安静にしすぎて寝起きや歩行の機会がなくなり、急速に心身の機能が衰える「廃用症候群」になることを防ぐこと。こわばった関節は動かしにくいため、萎縮した関節をマッサージで少しずつ動かしていく。血行が良くなり、むくみが取れて楽になるという。

痛みを緩和するだけでなく、「座りたい」「立ちたい」「歩きたい」など少しでも生活の質が上がるよう積極的な施術を求める要望も多い。

関節がこわばり体の部位が突っ張った状態の患者への施術は、知識がないと骨折などにつながる可能性もあり、特に注意が必要だ。このため、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師で身体機能を向上させる理学療法の知識を高め、訓練を積む人も増えている。

日本在宅マッサージリハビリテーション協会(東京)は大学などとの共同研究で独自に「リハビリ機能回復士資格制度」を設け、これまでに約400人を講座で育成した。

同協会の真砂由明理事は「痛みを訴える患者とコミュニケーションを取り、筋肉を緩めながら可動域を広げていくには相当な技術が必要」と指摘。「在宅介護が増えるなか、患者や家族に訪問マッサージを治療の選択肢としてもっと知ってもらいたい」と話す。

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■医師の同意書が必要

患者が訪問マッサージを受ける場合は、医師の「同意書」が必要だ。要介護認定を受けている患者で訪問マッサージを希望する場合は、ケアマネジャーに相談するとよい。訪問マッサージのほかに、はり・きゅうの施術を保険診療で受けることもできる。

厚生労働省は2018年度から、はり師、きゅう師およびあん摩マッサージ指圧師の施術にかかる療養費の算定などを見直した。3カ月の同意書の有効期限を6カ月に延ばした一方で、同意書を再発行する場合に医師の診察が必要とした。それまでは医師が口頭で許可すれば延長が許されていた。改定の背景には、施術者による保険診療報酬の不正請求を防ぐ目的もある。

保険診療で訪問マッサージを受ける患者は外出が難しい状態で、身体機能は低い。継続的にマッサージを受けても効果は症状の現状維持か悪化を食い止める程度にとどまることが多いが、劇的な改善が見込める患者もいる。

日本訪問マッサージ協会の藤井宏和代表は「心がふさぎがちになる在宅治療の生活で、患者や介護する家族と定期的にコミュニケーションを取り、前向きな気持ちになる手伝いができる意義は大きい」と話す。

(松浦奈美)

[日本経済新聞夕刊2019年3月6日付]

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