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辻村深月が映画「ドラえもん」脚本 大人の本気届ける

2019/2/25付 日本経済新聞 夕刊

直木賞作家、辻村深月が映画「ドラえもん」の脚本に挑んだ。「今、作家としていられるのもこの作品があったから」と語るほど思い入れある物語をどう書いたのか。

「公開前なので、どんな風に見られるんだろうと思うと、毎年楽しみにしていたものが少し怖いです」。3月1日から全国東宝系で公開される「映画ドラえもん のび太の月面探査記」の脚本を書き下ろした。1969年に藤子・F・不二雄が生みだした国民的人気漫画。幼いころから憧れ、ともに育ってきた。重圧は大きかった。

■「バトンを私が受け継ぐ番」

6年前にも一度、依頼を受けているが断った。自身の小説「凍りのくじら」では、章のタイトルに漫画「ドラえもん」に登場するひみつ道具の名前を付けるほどの大ファン。昨年、本屋大賞を受賞した「かがみの孤城」にもその影響があるという。「書いたら好きなだけではいられなくなる」とその時は固辞した。

しかし、藤子プロのスタッフと交流を重ねるうちに、気持ちが変化していった。藤子の遺作となった「大長編ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記」(97年)の執筆を引き継いだ、チーフアシスタントのむぎわらしんたろうからは「先生、これであってますか?」と問いかけながら制作したという話を聞いた。「こういう作り手がいたから、ファンとして毎年見ることができた。今回はバトンを私が受け継ぐ番だ」

シリーズ39作目の今作は月を舞台に、謎の転校生とのび太たちが大冒険を繰り広げる。これまで様々な世界が舞台になったが、月は描かれていない。「近く見えるけど、38万キロ離れた遠い世界。自らのペンネームにも月が入っていることにも縁を感じた」という。

脚本執筆にあたり、最も意識したのは「この作品は自分のものではない」ということ。「藤子先生ならどうするかを考えて悩んだこともあった」と言うが、途中から頭を切り替えた。「先生がどうするかは分からないけれど、大ファンなのでどうしないかは分かる」。ドジだが優しいのび太、おちゃめなドラえもん。キャラクターはいつもと同じ表情をみせてくれている。

■アニメ制作はチームの力

辻村深月 1980年山梨県生まれ。作家。千葉大卒。2004年、作家デビュー。12年「鍵のない夢を見る」で直木賞。著書に「ツナグ」(吉川英治文学新人賞)など。アニメやゲームの影響を受けた作品も多く、幅広いジャンルの小説を執筆。

脚本を手掛けるのは初めて。完成までに、あらすじを約8稿、脚本4稿を重ねた。八鍬新之介監督らと一緒に作り上げたものだ。小説は一人で書くが、アニメ制作はチームでの仕事だ。「荒涼とした大地と書くとそれができあがってくる。まるでひみつ道具みたいだった。作品が声優さんやアニメーターさんら大人の本気が集まってできていることを実感した」と笑う。

脚本を元にした小説も出版した。最初に、藤子プロから依頼された際は意味がなかなか見いだせなかったというが、書いてみると様々な発見があった。最初の一文を書いたとき、「脚本とは全然違う。ただなぞるのではなくて、映画とは違うやり方で演出まで自分で書くことなんだと気づいた」と話す。まるで「もう一つの映画を撮るような気持ち」で執筆した。

声優の演技と絵が加わるためセリフも一言にしたほうが効果的な場合もある映画に比べ、小説では状況や気持ちを細かく描写する必要がある。「それぞれ得意な部分があると実感した。やっぱり自分は小説家だと思えたし、勉強させてもらえたことが多かった」

小説には子どもたちへの思いも込めた。普段は本を手に取らない子どもも、ドラえもんなら読む可能性がある。あえて平易には書かず、ジュニア文庫版でもひらがな書きを抑えた。「少し難しくても、前後の文章を読み返したり、映画と比べたりして楽しんでほしい。初めての言葉とたくさん出合う機会が作れれば」

自身も2児の母。子どもたちもドラえもんが大好きだ。「自分が好きだったものが、今も続いているのはすごいこと。これが誰かにとって、初めて触れるドラえもんになるかもしれない。39作の一つに関われたのは本当に幸せです」

(赤塚佳彦)

[日本経済新聞夕刊2019年2月25日付]

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