K2や北極… 写真家・石川直樹の旅が描く本当の世界

写真展「この星の光の地図を写す」の作品について語る写真家の石川直樹(東京都新宿区)
写真展「この星の光の地図を写す」の作品について語る写真家の石川直樹(東京都新宿区)

地球を縦横に動きまわり、独自の視点から世界を新たに見つめ直してきた写真家、石川直樹(41)。地球に星座を描くような20年にわたる活動を回顧する写真展が開催中だ。

一体、自分はどこにいるのだろう? 会場を歩くうちに不思議な感覚に襲われた。真っ白な部屋に浮かぶ極北の村。次の間は薄暗く、赤一色の壁に壁画の大きな写真が飾られている。さらに、ミクロネシアの島々と原生林、富士山、そしてヒマラヤ山脈のK2――。

7大陸最高峰制覇

東京オペラシティアートギャラリー(東京・新宿)で開催中の「この星の光の地図を写す」(3月24日まで)で展示されているのは石川の歩みそのものだ。20歳で北米最高峰のデナリ(旧称マッキンリー)を登頂し、22歳で北極から南極を人力で踏破、23歳のときには7大陸すべての最高峰を制覇した。現在に至るまで精力的に活動を続けてきた。「水平方向から垂直方向まで1人が訪れた道のりとしてはかなりのものではないか」と感慨深げに話す。

写真展に飾られている作品は地域も文化も全く異なる。しかし、見終わった後、国という単位で隔てられていた世界がゆるやかに、しかし確かにつながっていることに気づかされる。「自分の活動は個々に輝いている星(地域や文化)をつなげ、星座を描いていくのに似ている」。たどった道のりからは、石川が提示する新たな世界が見えてくる。

対極に思える北極に生きる人と砂漠の民にも共通の「生きる力の強さ」があり、ハワイ諸島、イースター島、ニュージーランドを結んだポリネシアン・トライアングルには広大な海をものともしない共通語がある。「国境や常識を引っぺがした先に、本当の世界は浮かんでくるのでは」

会場には、実際に旅で使用した道具や書斎にある本も展示されている。その中に、石川の思いを象徴する一点を見つけた。日本と東アジアが逆さまに印刷された見慣れない地図。日本海はまるで湖のように見える。「ただひっくり返しただけなのに、全く未知の光景が立ち上がってくる。知っていると思っていたことは実は知ったつもりになっているだけではないか」。旅はそれを確かめるための手段だ。

写真展で飾られている「POLAR」(2007年)より

そんな石川にとって、写真は自分がその時に見たものをそのまま写し取るための最適な方法だ。「世界の端的な模写。失敗も成功もない」と話す。8000メートル級の山や南極の氷壁などの写真はやはり目を引くが、「どんな場所だろうが等価。日常の中にも未知の風景がある」と話す。東北の祭や日本の学生たちといった身近な光景も展示されている。世界をフラットに捉えるまなざしが作品を幅広く、より深くしている。

記録性を重視する姿勢は、写真を始めたころから変わっていない。何枚でも撮れるデジタルではなく、フィルムカメラを使い、天候待ちもしない。「過度な修辞を排し、反応で撮る。世界をカメラで受け止める感覚」だという。「写真に残っていないとなかったことになるものがたくさんある。100年後、どんな意味を持つのか考えている」

ズームは使わない

それでも、石川の写真が単なる記録に陥らないのはズームレンズを使わず、単焦点レンズのみを用いているからだろう。「相手にどこまで寄れるのか、自分が寄りたいのか。被写体との距離感がそのまま出る。写したいのは、自分と被写体との関わり」という。近づきすぎて顔がぼけた男性の姿もあれば、遠くかすむ山並みもある。シャッターを切った当時の感情が伝わってくる。

写真家、冒険家と様々な肩書で呼ばれるが「どれもしっくりこない。本当は石川直樹が一番いいんです」と笑う。根本は探検や冒険の本に夢中になった少年の頃のままだ。6月には前回登頂を断念したK2に再び挑む。「登ってみないと分からないことがきっとあると思う。だから登りたい」。旅はまだまだ終わらない。

(赤塚佳彦)

[日本経済新聞夕刊2019年1月28日付]