「自家造血幹細胞移植」も実施した。本人の正常な造血幹細胞を採取した後に冷凍保存しておき、抗がん剤を大量投与して異常細胞を破壊する。その後、取っておいた正常な造血幹細胞を体内に戻す。免疫力も落ちるため移植は65歳未満が基本だが、臓器の働きが十分で感染症がないなど医師が問題ないと判断すればもっと高齢でも受けられる。

このほか異常細胞が局所に固まり痛みなどがある際は放射線を照射する治療がある。骨や神経の痛みに対し薬で対処する例もある。

特性に合わせ選択

Aさんのケースでは、再び異常な形質細胞が増えてきたため、今度は免疫機能を高める抗体医薬品「エロツズマブ」を投与した。2年近く病気をコントロールできており、仕事をしながら定期的に通院している。

プロテアソーム阻害剤にはボルテゾミブのほか「カルフィルゾミブ」、17年登場の経口薬「イキサゾミブ」がある。免疫調節薬でも15年に「ポマリドミド」が使えるようになった。抗体医薬品ではエロツズマブ以外に「ダラツムマブ」も使える。別の種類の薬「パノビノスタット」などもある。

新しい薬が次々登場する理由は「基礎研究が進み、異常な細胞が生き延びる様々な仕組みが分かってきたから」。東京北医療センター(東京・北)の血液内科長と国際骨髄腫先端治療研究センター長を務める三輪哲義医師は話す。「骨髄腫は性質が少しずつ違う異常細胞の集合体。全ての細胞をたたける薬は今のところない。その時点で体内で優勢な異常細胞の特性に合わせて薬を選ぶのが理想だ」

国際骨髄腫先端治療研究センターは高度な分析装置をそろえ、患者のデータをもとに薬を選ぶための研究をしている。将来は患者のその時々の状態を見ながら薬を変える治療法の普及を目指す。

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最先端 免疫療法 実用化へ 研究進む

多発性骨髄腫を「CAR―T細胞療法」と呼ぶ最新の免疫療法で治療する準備も進んでいる。大阪大学の保仙直毅准教授らがマウスを使った実験で効果を確認し、2018年8月に大塚製薬と共同で実用化を目指すと発表した。同社は1~2年後をめどに臨床試験(治験)を始めたい考えだ。

CAR―T細胞療法は免疫細胞の一種であるT細胞を遺伝子操作して、がん細胞の目印を認識して結合するようにし、がんへの攻撃力を高める。海外では盛んに研究されており、スイス製薬大手ノバルティスが開発した製品は米国で17年8月に一部の白血病で、18年5月には一部の悪性リンパ腫で認可された。欧州連合(EU)でも同様に認められた。日本でも製造販売承認を申請した。

阪大チームは、多発性骨髄腫で細胞同士の接着に関わるたんぱく質「インテグリンβ7」が、がん化した細胞で活性化され、形を変えることを発見した。活性化したたんぱく質だけを認識して結合するようにT細胞を遺伝子操作した。

多発性骨髄腫のモデルマウスにCAR―T細胞療法を施す実験で、治療効果を確認した。保仙准教授は「早期に実用化して完治に少しでも近づけたら」と期待する。

免疫療法ではがん免疫薬を併用する試みもあるが、米国で治験が中止された例もあり、研究途上だ。

(長谷川章)

[日本経済新聞朝刊2019年1月14日付]