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高齢者の閉じこもり防げ まず週1回外出で悪循環脱出 買い物や散歩、支援する自治体も

2018/12/19付 日本経済新聞 夕刊

足腰の衰えなどが原因で外出せず、一日中家で過ごす「閉じこもり」の高齢者が増えている。放置すると寝たきりや要介護状態を招く恐れがある。閉じこもり気味の高齢者に外出を促すにはどうすればよいか。自治体の取り組みや専門家の話を基に対処法を探った。

11月下旬、山形県天童市のスーパー、おーばん久野本店に、通所介護事業所の車で送迎された70~90代の高齢者5人が集まった。「時間は1時間です。ゆっくり回ってください」。担当者から説明を受けた後、高齢者は買い物を楽しんだ。

天童市が10月から始めた「ショッピングリハビリ事業」だ。買い物をきっかけに外出を促す狙い。対象は介護保険で要支援とされた高齢者で、9つの介護事業所と4つの商業施設から協力を得た。利用者は週1回、自宅から商業施設に送迎してもらう。利用料は月1410円。15人が利用する。

介護事業所の職員に付き添われながら買い物を楽しむ古市さん(左)(山形県天童市)

古市信子さん(88)は必要な食料や好きな果物を買い込んだ。「送迎があるから楽。いい気分転換になる」と満足げだ。別の女性(88)は息子に説得されて9月に運転免許を返納したばかり。「車がないと買い物にも苦労するので、非常にありがたい」と話す。

もうすぐ冬本番。「雪で外出を控える高齢者は多い。体を動かす機会が減るので、店内を歩いて身体機能の維持をめざしたい」と市保険給付課の後藤栄さんは話す。支払いをすることで脳の刺激になり、店員らとの会話で孤独感も和らぐ。

閉じこもりとは何か。厚生労働省の「閉じこもり予防・支援マニュアル」分担研究班長の安村誠司・福島県立医科大教授は「週1回も外出しない状態のこと」と話す。行動範囲が家の中か庭に限られ、めったに家の外に出ない。生活機能や能力がどんどん低下し、やがて起きられなくなり寝たきりや要介護状態になる。

逆の見方をすれば、最低でも週1回外に連れ出せば、悪循環から逃れられるともいえる。東京都板橋区の認知症高齢者等外出支援サービス事業「ごいっしょサービス」も、そんな狙いがある。週に1回程度、認知症の高齢者宅にボランティアを派遣し、散歩の付き添いや話し相手になってもらう。高齢者の外出機会を増やし、家族の休息時間を確保するのが目的だ。

小山充明さん(56)は週1回、母親の幸子さん(91)のためにこのサービスを利用する。ふだん母親は自室で寝ていることが多いが、「利用を始めてから生活にメリハリがつくようになり、表情も明るくなった」と効果を認める。

安村教授によると、閉じこもりの要因は3つある。1つは骨折や膝痛、病気の後遺症などで身体機能が低下するといった身体的要因。もう1つが心理的要因。転倒に対する恐怖心や配偶者を亡くした喪失感などで、外出意欲をなくす。3つ目が社会・環境要因。近所付き合いがない、家の周りに坂が多いなど外出を消極的にさせる環境を指す。

気をつけたいのが、同居家族が高齢者の外出を禁じる行為だ。事故を心配し、子供や嫁が「危ないから外に出ないで」とつい言いがち。言われた高齢者は外出意欲を失う。親への気遣いが閉じこもりを誘発する皮肉な結果になりかねない。

離れて暮らす老親の閉じこもりを防ぐために、子供にできることは何か。安村さんは「週に1回電話して、外出の有無を尋ねるのがいい」と話す。こまめに親と話すようにして、近所への買い物やちょっとした散歩でもいいから、週1回は外出するよう促すことが大切だ。

◇  ◇  ◇

■高まる死亡リスク 人との交流も重要

閉じこもりは死亡リスクを高める要因にもなる。東京都健康長寿医療センター(東京・板橋)が7月に発表した調査によると、閉じこもっていない高齢者に比べ、閉じこもり傾向がある高齢者の方が死亡率が高いことがわかった。

調査は2008年から14年にかけ、埼玉県和光市の65歳以上の健康な高齢者(08年当時)1023人を追跡した。2~3日に1回しか外出しない「閉じこもり傾向」と週に1回も他人と話さない「社会的孤立」に分け、死亡率を比較。閉じこもり傾向にも孤立にも当たらない高齢者の死亡率は4.7%だったのに対し、両方該当する高齢者は12.8%と大きな開きがあった。

閉じこもり傾向は完全な閉じこもりの前段階といえる。調査を担当した桜井良太研究員は「外出しないよりはした方がいいが、外出先で他人とどうかかわるかも重要。できるだけ人と話をするなど、質の高い外出を心がけるべきだ」と指摘する。

(高橋敬治)

[日本経済新聞夕刊2018年12月19日付]

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