映画『マダムのおかしな晩餐会』 階級差、苦い笑い
アメリカ人富豪夫妻がパリに引っ越してディナーを開く。招待客はセレブだが、そこに1人の庶民が加わったことで見えてくる階級差と、両者の間の越え難い溝を苦い笑いを交えて、監督2作目のフランス人女性作家アマンダ・ステールが原案、脚本で描く。
1人加わる庶民は夫妻の家のメイドでスペイン移民のマリア(ロッシ・デ・パルマ)。ディナーの客が、夫ボブ(ハーヴェイ・カイテル)の前妻の息子スティーブン(トム・ヒューズ)の飛び入りで13人になり、縁起が悪いと気にする妻のアン(トニ・コレット)が嫌がるマリアを友人に仕立てて席に着かせた。
初めは気後れしつつも酒が入れば下品なジョークの連発、美術コンサルタントのデビッド(マイケル・スマイリー)の好奇心をそそるマリアは、気取った会話の客たちにイケメン俳優やハッピーエンドへの愛着を披露する。デビッドにマリアのことを聞かれた息子は「これは秘密だがスペインの前国王のまた従姉妹(いとこ)だ」と大ウソをついた。
ボブは所有するカラヴァジョの絵を美術館オーナーに売ろうとしていて、仲介者のデビッドにへそを曲げられては困る。美術館オーナーはアンに高価なネックレスを贈って口説く。「結婚生活には不倫が必要だ」と。
メイドの分際で恋におちたマリアと、何も知らずに彼女に夢中のデビッドへの嫉妬に狂うアンの怖いこと! 夫がフランス語の習得と称して若い女に夢中なのも許せない。こうなったらデビッドに真実を……。
主人を怒らせた使用人はどうなる? 彼らのやり方はこれか、と庶民には唖然(あぜん)の底意地の悪さが見もの。ここでは男も同類、上流階級は庶民の侵入を許さない。見かけの優しさで支配しながら邪魔になればバッサリ切る。上流階級と庶民の間にある隔たりの大きさは昔も今も変わらない。1時間31分。
★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年12月7日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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