映画『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』 文豪の苦悩と聖夜の歓び
「クリスマス・キャロル」を執筆中のチャールズ・ディケンズ(1812~70年)の生みの苦しみの中に、物語の主人公である老人が出現、彼の案内で作品が少しずつ形になっていく。
レス・スタンディフォードの原作を、インド系英国人監督バハラット・ナルルーリが英国ヴィクトリア朝の重々しい雰囲気にユーモアも交えて映画化した。
文豪チャールズ・ディケンズ(ダン・スティーヴンス)。米国にまで名前は売れても30代初めの若さでじきに5児の父になるのに家計は火の車。親友でエージェントでもあるフォースター(ジャスティン・エドワーズ)に新作執筆を宣言、クリスマスまでに出版を、と言ってもあと6週間だ。アイデアが浮かばずに苦しむチャールズの前に彼が書こうとしている「クリスマス・キャロル」の強欲老人スクルージ(クリストファー・プラマー)が現れた。
そこへ金銭にルーズでお調子者の父親が田舎からやって来る。チャールズはこの父が刑務所に入ったせいで12歳のとき靴墨工場に働きに出され、彼の大ヒット作「オリバー・ツイスト」の苦境を体験した。
チャールズはスクルージと彼の連れの3人の幽霊の案内を得て筆を進めるが、それは彼の過去の扉を開いて現実の痛みと向き合う旅でもあり、妻や物語好きの可憐(かれん)なメイドにまで当たり散らすことになった。
薄暗いロンドンの街や子供の笑い声が響くディケンズ家、陰気な墓地、廃屋になった靴墨工場などを背景として現実と幻想が一つになり、物語が立体的に立ち上る様子や、ディケンズの心に影を落とした出来事が語られていくうちに驚きの速さで出版が実現した。
そして口うるさい批評家も絶賛の「クリスマス・キャロル」が語るクリスマスは、家族が集う幸せのときであり、世界はクリスマスを祝う歓(よろこ)びを知ったのだ。1時間44分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年11月30日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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