ヘルスUP

病気・医療

救急車呼ぶか迷うとき 知っておきたい「#7119」

2018/11/19付 日本経済新聞 朝刊

けがや急病で救急車を呼ぶかどうか迷ったときの相談ダイヤル「#7119」の普及が進んでいない。常駐の医師や看護師らが対応し、緊急性が低ければ医療機関を案内する仕組みで、高齢社会を背景に救急車の出動件数の増加に歯止めをかけようと導入された。人件費の問題などから24時間の相談態勢を整えるのが難しく、9都府県と4地域にとどまる。専門家は知名度の向上も課題に挙げる。

119番するかどうかなどの電話に応じる相談員ら(大阪市西区の救急安心センターおおさか)

「吐き気はありますか。歩くことはできますか」

10月下旬、#7119に24時間態勢で対応する大阪市の「救急安心センターおおさか」。パソコンのモニターを前に、相談員の男性が腹痛を訴える利用者から症状を聞き出し、病院を案内していた。

総務省は2009年、東京消防庁の先行事例をもとに#7119を導入。大阪市が同年にモデル事業として市内を対象に始め、10年末から府内の全市町村と共同運営で全域に窓口を拡大した。17年の着信は25万3252件。2分に1回は電話が鳴っている計算だ。

高齢者が増える中、不急の救急出動を抑制するのが狙い。総務省消防庁によると、17年の救急車の出動件数(速報値)は前年比13万2千件(2%)増の634万2千件と8年連続で過去最高を更新。搬送者のうち軽症が48.5%と半数近くを占める。

利用者は判断が難しい症状を相談でき、専門家のアドバイスを受けられる利点がある。大阪の場合、相談員は元消防隊員らが務め、出血や打撲など様々な症状に応じた判断基準をもとに、利用者の緊急度を判定。医師や看護師も常駐しており、必要に応じて看護師が直接相談を受けたり、医師が看護師に助言したりすることもある。

17年の着信件数のうち、実際に救急車が出動したのは4891件(2%)で、大阪市消防局の担当者は「救急出動の抑制には一定の効果が出ている」とみる。

#7119は大都市を中心に導入されている。ただ18年10月時点で宮城、茨城、埼玉、東京、新潟、大阪、奈良、鳥取、福岡の9都府県と、横浜市や神戸市など4地域にとどまる。一定の効果がみられる自治体もあるのに全国に広がらないのはなぜか。

その大きな要因が相談員の確保の難しさだ。総務省は原則、24時間365日で医師や看護師らの相談対応を求めている。

愛知県は救急時に医療機関を案内する電話窓口を24時間態勢で設けているが、医師や看護師は常駐していない。県は09年に半年間、#7119を試験導入したが、採用には至らなかった経緯がある。県の担当者は「医師、看護師を配備すれば人件費が大きく膨らむ。費用に対して軽症者搬送の抑止効果が確認できなかった」と説明する。

24時間ではなく夜間などに限って類似の相談ダイヤルを設けている県もある。17年から「#7009」を導入した千葉県は、看護師が救急車を呼ぶか医療機関を受診するか相談に応じている。ただ夜間の受付は午後11時まで。いずれ#7119に移行したい考えだが、県の担当者は「人件費の問題で、朝まで看護師を常駐させるのはすぐには難しい」としている。

#7119の番号は都道府県に1つだけ割り当てられるため、地域限定の導入では課題も浮上している。

その例が横浜市。同市を除く神奈川県内の自治体から#7119にかけると、横浜市の相談窓口につながる。同市以外の場合、現地の医療機関の情報が十分になく、119番にかけ直すよう案内することもある。このため県と横浜市などは、救急車を呼ぶかどうかの緊急度判定を全県で運用できるよう検討している。

総務省消防庁は「地域独自の番号ではなく、全国で医療相談ができるよう#7119を広げたい」との立場。09年から新規の立ち上げに対し補助金を出し、17年には導入した自治体の職員を派遣し、運営方法を説明する取り組みも始めた。

欧米では救急車を有料とする国も多く、一定の抑止力になっているとされる。例えば米ニューヨーク州は約300ドルかかる。日本でも有料化を検討したことがあるが、総務省消防庁は慎重な姿勢だ。

杏林大の山口芳裕教授(救急医学)は#7119について「医療提供者側の負担を減らす取り組みとしては有効だが、救急車の出動件数を抑えるために協力を仰ぐ形で広まっており、利用者側の利点が分かりにくい」と指摘。まだ認知度が低いとして「救急車の利用率が高い高齢者や乳幼児を持つ子育て世帯への周知を徹底すべきだ」と訴える。

その上で、全国への普及を図るためには「#7119の相談を健康全般に広げ、利用者のメリットを充実させることなども検討に値する」と話している。

◇  ◇  ◇

■不要不急の受診減へ 窓口の認知度向上 課題

患者が安心して医療を受けるためには、医療のかかり方に関する理解が欠かせない。

厚生労働省は10月、有識者でつくる懇談会で適切な医療機関の受診方法の議論を始めた。夜間や休日の受診を減らしたり、大病院への患者の集中を緩和させたりして、長時間勤務が問題となっている医師の負担を軽減させるのが狙いだ。

懇談会で厚労省側は「患者が医療機関を受診すべきかどうかを判断するのは難しい」と説明。#7119のほか、夜間や休日の子供の急病の際、医療機関の受診が必要かどうかなどを相談できる「小児救急電話相談(#8000)」の制度を紹介したものの、有識者からは認知度に課題があるとの指摘が出た。

厚労省の担当者は「上手な医療のかかり方を普及させるには、受診が必要な患者の勤務時間を会社が柔軟に運用したり、市民に向けた医療機関の情報提供の工夫など企業や自治体の協力が不可欠」と指摘。懇談会は年内にも上手な医療のかかり方の意見をまとめ、啓発方法なども話し合う予定だ。

(中川竹美、高橋彩)

[日本経済新聞朝刊2018年11月19日付]

ヘルスUP 新着記事

ALL CHANNEL