発売20年の鮮度保持フィルム 農家に訴求し市場開拓
住友ベークライト 峰島海さん
住友ベークライトの峰島海さん
住友ベークライトのフィルム・シート営業本部の峰島海さん(38)のミッションは、鮮度保持フィルム「P―プラス」の市場開拓だ。野菜や果物が消費者に届くまでのサプライチェーンを分析して作った仕組みで、P―プラスの販売増を支えている。
P―プラスは野菜や果物などの包装袋で微細な穴が開いている。青果物は絶え間なく酸素を取り入れ、二酸化炭素(CO2)を吐き出す。この「呼吸」が鮮度の維持に関係する。P―プラスの微細な穴は呼吸活動を調整して、青果物の鮮度を長持ちさせる。
主な販売先は野菜や果物を育てる農家だ。発売から20年たち、鮮度保持などP―プラスの利点を並べて農家に購入を促してきたが、十分な受注がとれずにいた。農業は季節や需給で価格が変動するため、コスト構造が曖昧で資材にかけられる資金を想定していないケースが多い。追加費用を嫌がる農家の心をつかむ工夫が必要だった。
量販チーム発足
「マーケット全体の情報を把握して、共有する仕組みが必要だ」。フィルム・シート営業本部の特命担当だった峰島さんが立ち上げたのが、市場量販チーム。農家だけでなく、卸業者や小売店も含めた青果物のサプライチェーンを分析し、共有した情報から農家の心に響くP―プラスの売り文句を探る算段だった。
農家は青果物が消費者まで届く流通過程で発生する悩みや課題を把握していないケースが多かった。峰島さんは、このままではP―プラスを導入する必要性や利点が伝わりにくいと考えた。
例えば、ある農家は発泡スチロールに氷と野菜を入れて出荷していた。小売店では運搬に使った発泡スチロールの処分に費用が発生する上、捨てた氷で床がぬれ、従業員が転倒する可能性もあった。流通過程で鮮度が落ちて届いた商品を廃棄しなければいけないケースもある。だが、こうした情報は農家に十分に伝わっていなかったからだ。
そこで市場量販チームは小売店のバイヤーや仲卸業者を訪ね、聞き出した流通段階の課題を農家に届けた。その上でP―プラスによる鮮度維持や包装の簡易化を提案。「流通過程での品質劣化を防げます」「小売店が扱いやすい荷姿で付加価値を付けられます」「鮮度を長持ちさせてより遠くの消費地まで届けられます」――。
なぜP―プラスが必要なのかを具体的に示すことで、「取引先の卸業者や小売店が困っているという情報を農家と共有することで営業活動が受注につながりやすくなった」(峰島さん)。P―プラスの2018年の売上高は16年比で約15%増加する見通し。増加分の7割は、市場量販チームから量産受注にいたった案件が占める。