ペペロンチーノに天ぷら 非常時にも役立つ乾物活用術
店の片隅にひっそり並ぶ乾物。人気がある食材とは言い難いが、実は栄養価が高く保存もきくスーパー食材だ。非常食としても注目される乾物の活用法を探った。
乾物とは、生の海産物や野菜などの食品を干して水分を減らしたもの。近年の和食ブームで海外からの需要が増えているのに、日本の家庭用の消費は低迷しているという。
栄養価が高く価格も安定
「乾物はかなり誤解されている」と嘆くのは、日本かんぶつ協会(東京・千代田)のシニアアドバイザー、星名桂治さんだ。「戻すのが面倒で、料理も難しそうだし、レシピもマンネリ」という理由だが、それは誤解と強調する。
「天日干しの効果で栄養価やうまみが増す」と星名さん。乾物は敬遠するにはもったいない、いいことずくめの食材だ。年間を通じ価格は安定し、軽くてかさばらないので買い物も保管もしやすい。
保存もきく。星名さんによると、保存の際は冷蔵庫に入れる必要はなく、種類によるがだいたい半年から1年。ビンなどの密閉容器やチャック付きビニール袋で密封し、乾燥剤を入れる。少し古くなったり、若干湿気ったりした場合、天気のいい日に天日干しするといい。「買ってきたばかりの乾物も、天日干しすると風味が増す」(星名さん)
野菜料理家の庄司いずみさんは、乾物をめぐる誤解を解くべく、乾物レシピを多く提案している。かんぶつ協会認定の「かんぶつマエストロ」でもある。
庄司さんのおすすめは「戻さず調理」。乾物は干して抜けた水分を加えれば食べられる状態に戻るわけだから、「水分がある程度ある料理であれば、戻さず乾物のまま料理を始めても大丈夫」という。
干しシイタケのどんこや豆類のように水でしっかり戻す作業が必要なものもある。ただ、ひじきや切り干し大根、かんぴょう、春雨などはそのまま料理に使って問題ない。
さらに「和の食材という先入観も捨てて」と庄司さん。
庄司さんが例として調理したのは「乾物のペペロンチーノ」。鍋でパスタをゆでながら、フライパンにオリーブ油とニンニク、鷹の爪(たかのつめ)を入れる。ニンニクの香りが立ったらサッと洗っただけのひじきや、ざく切りにした切り干し大根とかんぴょうを、フライパンに入れていため合わせる。パスタのゆで汁をお玉1~2杯加えて乾物に水分を吸わせる。ゆで上がったパスタをあえて完成だ。
ゆで汁を吸った乾物は程よく歯ごたえが残りシャキシャキ。パスタのゆで時間だけで完成する。
高野豆腐も、庄司さんは水で戻さずどんどん使う。高野豆腐の天ぷらは、調味料を入れた煮汁に乾物のままの高野豆腐を入れて味を含ませ、衣をつけて揚げる。
高野豆腐は他にも、「すりおろしてハンバーグに混ぜてもいい。水でさっとぬらしてから手で小さくちぎって炒(い)りつければ、そぼろになる」と庄司さんはいう。
少量ずつ余った乾物は、普段の料理の具材の代わりに使うといい。チンジャオロースーのようないため物や、お好み焼きなどがおすすめだ。
非常時にも活躍 レシピは様々
「非常食としてもおすすめ」と話すのは、様々なレシピを紹介するなど乾物の普及活動を展開する一般社団法人ドライ アンド ピース(横浜市)の代表理事、サカイ優佳子さんだ。
サカイさんは2011年の東日本大震災の後、首都圏のスーパーで生鮮食品などが売り切れる一方で、乾物がたくさん残っていた光景を忘れられないという。「もしもの時にも乾物は使える。食品ロス削減や省エネにも貢献できる未来食ではないか」と乾物の普及活動を本格化した。
サカイさんが勧めるのは「食の防災訓練」。と言っても何も特別なことをするわけではない。保存がきく乾物を常に台所に用意しておき、普段から料理に取り入れる。サカイさんは「切り干し大根ならトマト煮やカレー、サラダにもどんどん使う」。無くなったら補充するローリングストックだ。こうすれば「生鮮食品が入手しづらくなっても慌てず、栄養のある普段の料理が作れる」(サカイさん)。
乾物は決して主役級の食材ではない。しかし、食材が少し足りない時に足すと、滋味が増す。乾物は力強い助っ人と心得て、味方につけたい。
(ライター 藤原 仁美)
[NIKKEIプラス1 2018年10月20日付]
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