映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 映画の闇暴く
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督は、『イット・フォローズ』で一風変わったホラー映画の新種を作りだし、世界的に大ヒットさせた。本作は、ハリウッドを舞台にとり、映画製作の裏側にひそむ闇の世界を徐々に暴きだす。
主人公のサムは、ロサンゼルスのシルバーレイクに住む。ハリウッドのすぐそばで、映画や音楽で成功をめざす若者たちが住む土地柄だ。だが、サムには職も未来もなく、アパートからの立ち退きを迫られていた。
そんなサムの部屋の前にサラという美人が越してくる。仲よくなって、翌日サラの家に行くと、中の壁に奇妙な記号が書かれ、夜逃げ同然の空っぽだった。
帰宅すると、テレビでは、映画製作者の大富豪が失踪し、車で焼かれてその遺体が発見されたというニュースを報じている。その映像には、サラのお気に入りの帽子が写っていた。
サムはそこに陰謀を嗅ぎつけ、呪われた街シルバーレイクを研究するオタクを訪問する。オタクはただちにサラの家の壁の記号が、カルト集団の暗殺を示すものだと解明する。サムは様々な手がかりを得て、陰謀の正体に近づくが……。
暗号解読、宝探し、陰謀論。現代の映画マニア好みの題材をこれでもかこれでもかと詰めこみ、ちょっと悪趣味で、同時にクールな映像を連ねて、まったく飽きさせない。ハリウッド黄金時代のフィルム・ノワール(探偵映画)のパロディともいえるし、『めまい』や『オズの魔法使』などへの言及も散見される。
そこにはセックスと悪徳の天国であるハリウッド神話への深い愛着が見られるが、ラストで登場するカルト教団のエピソードには、そうした物質文明の爛熟(らんじゅく)の極としてのハリウッドを否定したいという欲望も表れている。アメリカ映画の二律背反的魅力を描きだすミステリー映画といえよう。2時間20分。
★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2018年10月12日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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