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高血圧患者が急増? 成人も「130/80」に目標変更へ

2018/10/8付 日本経済新聞 朝刊

 血圧はどこまで下げた方がいいのか。米国で高血圧の診断基準が引き下げられたことを受け、国内でも来年春のガイドライン改訂を見据えて議論が進んでいる。現在のところ、日本では診断基準は変えないものの、治療の目標値が引き下げられる方向だ。現在治療を受けている約1千万人の高血圧患者はさらに薬が増える見込みで、厳しい服薬管理が求められそうだ。

最近は薬局などで血圧を測定できる場所が増えている(東京都千代田区の日本調剤駿河台薬局)

 「高血圧」と診断する基準を10ポイント引き下げる――。昨年、米国の学会が24年ぶりに医師が「あなたは高血圧です」と診断する基準を変更し、大きな衝撃が走った。しばしば「上の数字」「下の数字」という血管の収縮期と拡張期のそれぞれの血圧を「140/90」から「130/80」に引き下げたからだ。

 米国の高血圧患者は推計で7220万人。診断基準の引き下げで患者は一気に1億330万人に増えることになった。

 診断基準を引き下げた主な根拠は臨床試験の最新データで「130/80」以上でも脳卒中などのリスクが増えると分かったためだ。

 米国の基準引き下げを受け、2019年春にガイドラインの改訂を控える日本でも議論が進んでいる。もし米国と同様に引き下げれば、高血圧患者は現在の4300万人から2000万人増えて6300万人になる。日本の総人口の半分、成人の6割が「高血圧」になってしまう計算だ。

 だが日本高血圧学会は9月に開いた総会で「診断基準は変えない」という方針案を公表。議論に加わった学会関係者は「欧州の学会が6月に基準(140/90)を変えないと表明したので、日本でも変える必要はないとの意見が大勢を占めた」と説明する。

 正式な決定は来春になるが、このままいけば日本で高血圧患者が激増するといった事態は避けられそうだ。東京都内で開業する60代の内科医は「患者が混乱せずに済みそうでよかった」と話す。

 とはいえ、現在治療を受けている約1千万人の高血圧患者には、少なからず影響がある。なぜなら新しい方針案で治療の目標値が引き下げられたからだ。

 これまで高血圧の治療を受ける患者の目標値は75歳以上の高齢者が「150/90」、75歳未満の成人が「140/90」だったが、新しい方針案は高齢者が「140/90」、一般成人は「130/80」未満に下げることが目標となる。

 引き下げ幅は米国と同様に10ポイントで、ほぼ降圧薬1種類を服用した場合の低下幅に相当し、降圧薬が1種類追加されるイメージだ。

 高血圧の治療に詳しい東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巌医師は「多くの患者は今まで以上に積極的な治療が必要になってくる」と解説する。

 薬の種類や服用回数が増えると、飲まなくなる人も増えてくる。特に高血圧では薬が多く、一方で効果は実感しにくいため、治療目標値への到達率が低い。日本では男性で30%、女性で40%の患者しか到達していない。

 到達率が低いのは世界共通で問題視されている。学会関係者は「高血圧は診断が簡単で優れた薬がいくつもあるのに、ここ10年低いままだ」とこぼす。

 こうした場合、2種類、3種類の降圧薬を1錠にまとめた配合剤を選択するのは1つの方法だ。従来のまま複数の薬を処方され、服用しやすい配合剤を医師から知らされていない患者も多い。最近は後発薬で安価な配合剤も増えている。

 一方で、夏場には血圧低下や脱水が起きやすく、季節に応じて薬の種類や量を調整する医師も多い。配合剤にはそうした調整がしにくいものもあるため医師との相談が必要となる。

 日本高血圧学会の新しい基準案は、今後パブリックコメント(意見公募)を集めた上でさらに議論し、来年4月には正式に決定される予定だ。高血圧の患者はこれまで以上に定められた薬を飲む必要性が高まりそうだ。

◇  ◇  ◇

■米ガイドライン改訂根拠は… 血圧140→120未満 心筋梗塞少なく

 米国のガイドラインが改訂されたのは、降圧の是非に関する論争に終止符を打つ試験結果が発表されたことが大きい。

 これまで、高齢者では血圧をあまり下げない方がいいという考えや、下げすぎるとかえって有害な結果を生み出すという考えがあり、議論がまとまらなかった。そこで「米国政府は決着をつけるために試験し、やはり下げた方がいいという結果を出した」(東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巌医師)。

 スプリント試験と呼ぶ臨床試験の結果、収縮期血圧を従来の140未満まで下げた群よりも、120未満に下げた群の方が心筋梗塞などが少なかった。

 過去にこうした降圧薬の臨床試験では一部の製薬企業が不正を働くなど不信感が残るが、桑島氏は「臨床試験の監視が厳しくなったのに加え、今は降圧薬はほとんど価格の低い後発薬に置き換わっており、製薬企業が不正を働いた結果ではない」と指摘している。

(野村和博)

[日本経済新聞朝刊2018年10月8日付]

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