正しく塗れば劇的改善も アトピーなど皮膚科の塗り薬
自己判断で中止せず継続を
アトピー性皮膚炎や水虫などで病院で処方される薬を正しく塗ることへの注目が高まっている。分量や頻度、範囲など医者が必要だと思う量に比べ、少量を塗る患者もいる。医師や薬剤師が説明の場を増やしたり、子供にも分かりやすいようにイラストで目安量が分かるカードを無料配布したりする工夫をしている。患者側も薬の効果を高めるため十分な理解が必要だ。
「肌に乗せたティッシュがくっついて落ちない程度に塗りましょう」。8月末、東京逓信病院(東京・千代田)の皮膚科で開くアトピー教室には、入院や通院するアトピー患者や家族ら16人が参加した。薬剤師と医師がスライドを使い、皮膚外用剤の効果や正しい使い方を説明した。
約1時間の講義では「薬を多めに塗ることが早く治る近道」と強調する。乾燥を防ぐ保湿剤は1日に最低2回塗れば皮膚が丈夫になることや、一見症状がよくなっても自己判断で薬を中止しないことの重要性などを繰り返し伝える。
小学生の息子(10)と参加した川崎市の女性(46)は「同じ薬でも塗り方や量で治り方が劇的に変わる」と話す。息子は3歳ごろからアトピー性皮膚炎に悩み、通院してもひどくなる一方だった。今夏、同病院で診察時に塗り方の指導を受けて症状が驚くほど改善した。「広く薄く伸ばすべきだと思い込んでいた。今後も続けて完治させたい」と意気込む。
講座を担当する江藤隆史・皮膚科部長は処方した軟こうの空チューブを再診時に持ってくるよう呼びかける。「患者は塗る量が少なくなりがち。いかに塗っていないか自覚してもらうため」という。
「FTU(Finger Tip Unit)を合言葉に」。江藤医師ら皮膚科医は塗る量の目安をこう表現して理解を促してきた。「1FTU」は大人の人さし指の一番先から第1関節までの量で軟こうならば約0.5グラム。大人の両手の面積に塗る量を示す。
江藤医師は「チューブの太さや指の長さで量は曖昧だが、多めに塗る意識を根付かせるにはFTU単位の指導が効果的」と話す。
患者や医療関係者らでつくるNPO法人「日本アトピー協会」(大阪市)は財布などで持ち運べる「FTUカード」を作り、子供にも分かりやすいようイラストで目安量を示した。希望者には無料で配布している。
製薬会社「マルホ」(大阪市)もポスターや冊子で薬や保湿剤などの塗り方を写真やイラストで示し、ホームページでは動画も掲載して啓発をしている。
皮膚が赤くなったり剥がれ落ちたりする乾癬(かんせん)でも薬の塗り方が重要だ。
神奈川乾癬友の会では医師を招いた勉強会や患者同士の情報交換の場で正しい薬の塗り方を学ぶ。代表の奥瀬正紀さん(54)は40歳ごろに発症したが薬を塗っても悪化する一方だった。転院した大学病院でも塗り方の指導はなかった。他の乾癬患者会が主催する勉強会で「強くゴシゴシすり込むと刺激を与えて逆効果になる」などの情報を得て、必ず毎日塗るように心がけてから効果を実感した。
水虫の治療も薬の塗り方が決め手になる。東京女子医科大学病院皮膚科の常深祐一郎准教授は診察時に「どの範囲で塗っていますか」など細かく質問する。「患者に塗り方が足りないとの気付きを促すため」だ。
患者自身が正しい薬の塗り方に気づかないと、せっかくの治療も無駄になる。薬の効果を疑う前に正しく塗っているか確認することも必要だ。
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医師と相談 続けやすいものを
病院で外用薬を処方されても適切な量を塗らなければ効かない。一般的に飲み薬に比べ、塗り薬は継続が難しいという。主な塗り薬である軟こうは、べたつくことを嫌う患者が目立つ。
アトピー性皮膚炎では伸びがよいクリームやゲルのほか、かきむしりを防ぐ役割もあるテープなど選択肢は広がっている。部位に制限はあるものの、医師と相談して、続けやすいタイプの薬を選ぶことも正しく塗る秘訣だ。
水虫では、5本指ソックスで、べたつきを感じにくくすることを勧める医師もいる。軟こうに比べてべたつきがなく、さらさらとした感触の薬もある。頭部にできる水虫(シラクモ)は薬が塗りにくいため、抗菌剤が入ったシャンプーも効果的だ。
東京逓信病院の江藤隆史医師は「塗り薬が大切と理解しても継続して使うのは簡単ではない。薬を塗りたいと思えるような工夫を重ね、医師も患者も根気よく完治に向けて取り組みたい」と話している。
(松浦奈美)
[日本経済新聞夕刊2018年9月12日付]
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