映画『泣き虫しょったんの奇跡』 青春の無為と後悔
将棋のプロ棋士になるには、どんな難関をくぐらねばならないか。日本将棋連盟の養成機関、新進棋士奨励会にはいり、21歳までに初段、26歳のリーグ終了までに四段に合格しなくてはならない。きびしい年齢制限がある。
それをはじめて特別措置で突破した瀬川晶司五段の自伝を、豊田利晃の監督・脚本で映画化。豊田は、9歳から17歳まで奨励会に所属し、映画界へのデビューも阪本順治監督「王手」(1991年)の脚本。ひさびさに血の騒ぐ題材だったろう。
「ナイン・ソウルズ」(2003年)、「空中庭園」(05年)等、変わった題材を尖った感覚でえがく異才という印象のつよかった豊田利晃だが、この映画では、一変したように地道なかたりくちで、しょったんこと瀬川晶司の将棋人生をコツコツとたどっていく。
はじまりは小学5年生だった1980年。将棋が好きだった晶司は、プロ棋士という職業の存在を知る。同学年で家がとなりの鈴木悠野(ゆうや)は好敵手。父(國村隼)のすすめで町の将棋道場にかよい、中学3年で、晶司は奨励会の試験に合格。
22歳で三段まで昇段した晶司(松田龍平)だが、そこからの壁が高い。一人ぐらしになり、奨励会の同輩たちとつるんで、ついダラけていることが多く、26歳のタイム・リミットが徐々にせまってくる。
それでも根拠のない希望をもちつづけ、結局、失格の時をむかえる。1年後、ずっと応援してくれていた父が、交通事故で死ぬ。
このあたりの、青春という時期の無為さかげんと、後悔の念が、篇中、最も胸にせまるところ。
プロへの道を断たれたがアマとして将棋を再開した晶司に、やがて道が……。
サクセス・ストーリーではなく、むしろ人生のままならなさをうかびあがらせる。共演陣が多彩だ。2時間7分。
★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2018年9月7日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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