透け透けでぷりっぷり 佐賀・呼子のイカ生け作り
佐賀県北西部に位置し、福岡空港と電車でつながる唐津市。その中心から西へ路線バスで30分ほど揺られると呼子に着く。イカの生け作りで知られる小さな港町だ。
人気店、活魚料理の河太郎は1961年創業。初代社長の故・古賀光謹さんが友人の船上で食べたイカのうまさに驚嘆したのがきっかけで呼子店のメニューに載せた。いけすから出され、間髪入れずにさばかれたイカは透明そのもの。下の大葉が透けて見える。ぷりっぷりの身は厚みがあって歯応え抜群。次第に甘みが広がっていく。残ったゲソなどは天ぷらや塩焼きなどにして供される。
「福岡市の中洲本店の常連さんも、やっぱり呼子店で食べる方がうまいと言います。朝、漁から戻った船を店の横の岸壁につけ、すぐにいけすに運び、海水を直接いけすに取り込むなど鮮度にこだわっています」と店長の中村宣公さん(36)。
イカはストレスに弱く、温度管理をしたいけすでも1週間もたないという。週末は平日の2~3倍の客でごった返し、かき入れ時のゴールデンウイークは千人を超えることも。その9割がイカの生け作りを注文する。板長の中尾努さん(39)ら職人は立ちっぱなしに。3人が横に並んで作業を分担。牛刀でおろし、皮をむいて切れ目を入れ、細かく切りわける――。1杯30秒以内で次々にさばいていく。
呼子とイカは一心同体だ。朝市は「日本三大朝市」の一つで、クリスマスの時期にはツリーにスルメやアジの干物が飾り付けられ、観光客に限り1人1枚持ち帰ることができる。朝市近くのいけすレストラン、いか本家はゲソの躍り食いで有名。目の前で店員が切り落としたゲソは、しょうゆをかけると動きが活発化。口に入れると舌にまとわりつく。
玄界灘に突き出した呼子は美しい夕日が見られる店も多い。いか本家のいそ浜別館や海舟、玄海などは呼子大橋や名護屋大橋に近く、波が光できらめいている。玄海はいち早くいけすを導入した店で、イカを生かす技術を研究し、店内には大小十数個のいけすを設置している。
ユニークなのは湾に浮かぶ海中レストラン、萬坊。桟橋を渡って店内に入ると、上の階は海を見渡す座敷席。階段を下りると、小窓から海中の魚を見ながら食事ができるテーブル席がある。もう一つの名物「いかしゅうまい」発祥の店でもある。
4月から11月は剣先イカ(ヤリイカ)が旬。5月頃に産卵し、6月すぎにとれるものは「梅雨いか」と呼ばれて一層、身が厚くなる。12月から3月の寒い時期はぷっくりした体形のアオリイカ(ミズイカ、藻イカ)、1月下旬から3月末は甲イカがとれる。3月下旬は、天気が良ければ3種類のイカを1度に食べる事もできる。
どうしても現地に行けないという人のためにイカを生きたまま発送する店もある。「いか道楽」は特製のビニール袋に酸素と詰め、1杯2600円+送料で発送している。
(佐賀支局長 中越博栄)
[日本経済新聞夕刊2018年5月31日付]
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