増えるペット由来の感染症 高齢者や乳幼児は重症化も
キスなど引き金に/接触歴メモして受診
ストレス多き現代人にとって、ペットは疲れた心を癒やしてくれるかけがえのないパートナー。ただ、ペットとの過度の触れ合いには思わぬ落とし穴がある。ペットからうつる感染症「ズーノーシス」だ。
ズーノーシスとは、人も犬や猫などの動物も感染する病気(人獣共通感染症)のこと。厚生労働省によると世界で200種類以上あり、中には身近に潜むものもある。「ペットから感染するズーノーシスは日本に25種類ほどある」とズーノーシスに詳しい日本大学医学部(東京・板橋)の荒島康友助教は話す。
その一つ、パスツレラ症は犬や猫から人に感染するズーノーシスで「全国の病院からの症例報告は1991年の七十数例から2011年に約750例と、10年間で10倍近くまで増えた」(荒島助教)。
感染すると、皮膚の化膿(かのう)や呼吸器の症状がでる。猫のほぼ100%、犬の約75%が口の中に原因菌を保有する。かまれたり、引っかかれたりして感染するほか、寝室に入り込んだペットが寝ている飼い主の顔をなめたことで感染する例もあるという。
ペットフード協会(東京・千代田)の17年の調査によると、全国のペット飼育数は犬が892万匹、猫が952万6千匹。飼育場所が「室内のみ」のペットは猫が全体の74.9%、犬で同33.5%に達する。
荒島助教は「ペットと人間の絆が深まり、一緒に寝たり、食事したりするなど接触の度合いが増えて、ズーノーシスの感染が広がりやすくなっている」と警鐘を鳴らす。「動物は基本的に何らかの病原体を持っている」ので、室内飼いのペットからも感染する可能性がある。
犬や猫との接触によって感染するズーノーシスは他に「Q熱」や「猫ひっかき病」などがある。健康な人なら発症しても自然に治癒するが、糖尿病などの持病がある人のほか、抵抗力が弱い高齢者や乳幼児が感染すると、重症化する場合があるので注意が必要だ。
感染を防ぐには、過剰な触れ合いを控えることが重要。ペットとキスしたり、自分の箸やスプーンで食事を与えたりすることは、感染のリスクを高める行為でしかない。佐藤獣医科(東京・板橋)の佐藤克院長は「ペットとの楽しい生活を守るために注意を払うことが不可欠」と話す。
それぞれのズーノーシスには特徴的な症状がある。ただ初期症状は発熱や鼻水といった風邪の症状や一般的な皮膚病と似ているため、病気の発見が遅れがちになる。
発症例はごくまれだが、重症化すると死に至るズーノーシスもある。ジフテリアに似た症状の「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」は1月に国内初の死亡例が確認された。敗血症などを引き起こす「カプノサイトファーガ感染症」は複数の死亡例が報告されている。どちらも「早期であれば抗生物質がよく効く」(荒島助教)ので、早めの診断が重要だ。
ただ、「医師にズーノーシスの診療経験がない場合が多い」(佐藤院長)。荒島助教は、受診時に動物との接触状況を医師に伝えるよう勧めている。「飼っているペットなど動物との接触歴を時系列に書き出したメモを医師に手渡すと、迅速な診断につながる」
狂犬病などを除き、ほとんどのズーノーシスにはワクチンがない。荒島助教は「正しい情報を入手してズーノーシスを防いでほしい」と訴える。
厚労省は毎年発行する「動物由来感染症ハンドブック」やズーノーシスの情報をホームページ上で提供している。愛するペットと末永く、健やかに暮らすためにも、ズーノーシスについて知って、ほどよい触れ合いを心がけよう。
(ライター 大谷新)
[NIKKEIプラス1 2018年5月19日付]
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