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稲垣吾郎が炭焼き職人 阪本監督新作、村から世界見る

2018/5/15付 日本経済新聞 夕刊

 炭焼き職人と元自衛官。39歳の幼なじみが故郷で再会する……。阪本順治監督が稲垣吾郎、長谷川博己と組み新作「半世界」を制作中だ。「小さな町に世界を見る」と阪本。撮影現場を訪ねた。

 志摩半島の入り江から山に入ったところ、三重県南伊勢町にその炭焼き小屋はあった。3月7日。簡素な屋根をかけただけの小屋には、窯から立つ煙の匂いがこもる。原木のウバメガシを窯に入れ、蒸し焼きを始めて約2週間。煙の色と匂いで窯の状況を判断する備長炭生産者の森前栄一さん(41)は「あさってくらいに窯出しです」と語る。

 「炭のスケジュールにあわせて、こちらのスケジュールも決めなくちゃいけない」と記録の今村治子。阪本組の常連だ。気温や湿度によって炭の焼け方が変わるので、それにあわせて撮影シーンも変えていく。

 3月8日朝。この日は窯出しでなく、稲垣吾郎演じる紘(こう)が窯の前で炭を選別するシーンを撮ることになった。降りしきる雨がトタン屋根をたたく。熱を冷ますために灰をかけられた炭をスタッフが仕込んでいる。

 毛糸の帽子、ワークシャツにベスト、口ひげとあごひげをうっすらはやし、赤い手袋をはめた稲垣が現れた。炭の長さを切りそろえる。切った炭と炭を耳元でたたき、音を聴く。純度の高い備長炭はたたくと「カラン」と澄んだ音がする。

 「稲垣君が土の匂いのする役をやったらどうだろう」。「人類資金」で香取慎吾と組んだ阪本は、香取や稲垣の事務所側に相談を受け、4年前にあらすじを書いた企画をもちだした。

 紘は生まれ育った山間の町に住み、父から継いだ窯で備長炭を製造、販売している。そこに中学の同級生で元自衛官の瑛介(長谷川博己)が帰ってくる。瑛介は紛争地からの帰還後に離婚し、廃屋同然の実家に引きこもった。紘は瑛介に仕事を手伝うように誘う。同じ同級生の光彦(渋川清彦)と共に、人生の半ばにさしかかる中年が、それぞれの岐路に立つ……。

 「エルネスト」「人類資金」で海外に飛び出し、世界と向きあう作品を作ってきた阪本が一転して、小さな炭焼きの村を描く。「日本の地方都市という間口は狭いが、そこから奥行きのあるものを撮りたい。グローバリズムの時代に、政治家や経済人を通して語る世界ではない、もう一つの世界。市井の人々や平凡な日常から見えてくる世界にスポットをあてたい」と阪本。

 題名の「半世界」は日中戦争に従軍し、中国の庶民を撮った写真家、小石清の写真展の題名からとった。紛争地で過酷な体験をしたせいか、瑛介は紘に「おまえらは、世間しか知らない……世界を知らない」と言い放つ。それでもこの炭焼きの里にも「見失いがちなもう一つの世界がある。そういう人たちにカメラを向ける」という意志をこめた。

 職人肌で仕事一筋、時に周囲が見えない紘という主人公について阪本は「自分を認めてあげられない人間。精いっぱいなんですよ。さぼっているわけではないが、自分の立場でしかモノが言えない。僕自身の性格も入っている」と説明する。稲垣については「(香取)慎吾が強い日差しと影をもつ人であるのに対し、日だまりの穏やかさをもつ人。真っすぐで、演出していて届くという感覚がある」。

「半世界」を演出する阪本監督

 3月7日、瑛介の家を紘が訪ねる場面の撮影。ジャージー姿の長谷川は不機嫌そうな表情だ。稲垣が昼なのに閉め切った雨戸をたたく。「瑛介! 瑛介!」というセリフが山にこだまする。「もう一音、高く」と阪本。身ぶりをまじえて稲垣に演技をつける。

 稲垣は3月15日の撮影終了後「自分に欠けている部分とか自分にない役を演じることによって、自分自身も深みを増すことができればいいなと思います」と語った。仕上げ中。来年公開。

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2018年5月15日付]

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