寝返り機能やリクライニング… 介護ベッドどう選ぶ
寝床から起き上がるのが困難になった高齢者や、支える家族にとって頼りになるのが「介護ベッド」だ。自宅で利用している人の多くは、介護保険サービスを使ってレンタルしている。最近は「自動寝返り」機能や、リクライニングチェアのように使える製品も登場している。高齢者を高齢の家族が支える「老・老介護」が増える中、お互いの負担を減らせる賢い介護ベッドの選び方を探る。
「夜中に起こされることがなくなり、ぐっすり眠れるようになりました」――。山形県の医療法人社団悠愛会の大島啓悟常務理事は、介護老人保健施設に入居している高齢者からこんな声を聞くという。同会は昨春、身体を動かすのが難しく床ずれの恐れがある高齢者らが暮らす「さくらパレス」と「メルヘン」(ともに同県)に「自動寝返り支援ベッド」約200台を導入した。
このベッドは電動操作で床板が左右に傾き、体の向きを変えられる。何時間ごとに床板を動かすかは、個々の利用者に応じて設定できる。特に効果を発揮したのが夜間だ。同会の施設では床ずれを防止するため、数時間ごとに職員が高齢者を抱えて体の向きを変えていた。この「寝返り介助」は重労働で、眠りも妨げてしまう。
自動寝返り支援ベッドはゆっくり動くので、気が付かずに眠っている人も多いという。メーカーのフランスベッドは1月から木目調の家庭向け製品のレンタル・販売を開始した。
メーカー各社は利用者の負担を減らそうと工夫を凝らしている。パラマウントベッド(東京・江東)の「楽匠」は、水平のベッドがリモコン操作でリクライニングチェアのような形に変わる。利用者は背もたれと足を載せる部分を同時に動かせる。
同製品を使っている要介護5の男性(77)の妻は「夫は座って食事をしたい思いが強くありました。食事の介助も楽になりました」と顔をほころばせる。
厚生労働省は福祉用具としての介護ベッドの定義を示している。ベッドから落ちてケガをしないよう側面に柵(サイドレール)があり、さらに(1)背部または足の傾斜角度が調整できる(2)床板の高さが調整できる――のいずれかの機能を備えている必要がある。
要介護2以上であれば、介護保険サービスで介護ベッドをレンタルできる。大手メーカーの売り上げの8割以上がレンタル向けだ。
利用にあたっては、介護計画を作るケアマネジャー(介護支援専門員、ケアマネ)、医師、自治体などが本人の自立支援などを考えながら総合的に判断する。レンタル料金はベッドの種類などによって異なるが、フランスベッドの場合は利用者1割負担の場合で月額約800~2600円が多いという。
ただ、高齢者の中には介護ベッドが必要と判断されても自力で寝起きしたいという人も少なくない。理学療法士の資格を持つパラマウントベッドの小池清貴氏は「頑張ればできる、努力すれば何とかなるという考えは危険」と指摘する。普通のベッドで体の向きを変え、その勢いで起き上がろうとすると落ちてケガをする恐れがあるからだ。
本人が介護ベッドを利用する意思があるのかを確認した上で、家族らがその人の寝起きの状態をケアマネに正確に伝える必要がある。ケアマネはそうした情報をふまえて医療機関や介護事業者などと調整し、介護保険を利用するための手続きをとることになる。
体を動かすのがかなり困難になった人にとって、ベッドは一日の大半を過ごす場所でもある。介護する側もされる側も、少しでも負担が軽くなれば気持ちに余裕が生まれるだろう。
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介護人材不足、深刻に
家庭向けの介護ベッドが本格的に登場したのは1980年代前半。その後、介護保険サービスのレンタル対象商品となり、高齢化の進展と共に普及が進んだ。近年は介護の担い手である家族の高齢化やヘルパーの人手不足といった問題が深刻化している。
フランスベッドホールディングスの池田茂社長は「介護用具を必要とする高齢者と家族が手ごろな価格で利用できるよう、国も制度面で後押ししてほしい」と要望する。
公益財団法人テクノエイド協会(東京・新宿)は、約800社、約1万2000件の製品情報を扱う「福祉用具情報システム(TAIS)」を公開している。同協会のホームページから閲覧できる。
(近藤英次)
[日本経済新聞夕刊2018年4月18日付]
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