『BPM ビート・パー・ミニット』 みなぎる力動感
昨年のカンヌ映画祭でグランプリをとった話題作。エイズと戦う青年たちの活動を描いた、緊迫感あふれる力強い作品である。
舞台は1990年代のパリ。エイズがまだ死に至る病だった時代、エイズ患者を中心に、彼らの生きる権利のために戦う団体「アクト・アップ」が結成される。主な活動はエイズ患者への不当な差別をなくし、病気対策に及び腰の政府や製薬会社に抗議し、高校生への啓蒙を行うことだ。
この団体で最も行動的な存在がショーンだった。彼は、政府主催のおざなりなエイズ対策会議を実力で粉砕したり、情報提供を嫌がる製薬会社に乗りこんで血糊(のり)をオフィスに叩きつけたりした。当然グループのなかにも社会的に受け入れられやすい温和な活動を主張する人々もいる。だが、それでは現状を変えられないと、ショーンとその仲間たちの行動は、ますます過激さを増していく。
ショーンは、新たに団体に参加したナタンと愛しあうようになるが、治療薬の開発が遅れるなか、彼の肉体は確実に病魔に侵されていった……。
あらすじの紹介だけでは社会派の題材にセンチメンタルな難病もののラブロマンスを絡めたように見えるかもしれない。ところがこれが、フィクションとは思えないほどの迫力に富んだ作品に仕上がっている。画面と編集の卓越したコンビネーションで、全篇(ぜんぺん)にアクション映画のような力動感がみなぎっているのだ。
また、活動団体の方針を決める大人数での討論の場面が素晴らしく、その丁丁発止のやり取りを見ていると、大革命を起こしたフランス人の精神の根源が言葉にあることが分かる。正しい言葉を探ることが、真の正義を求めることになるという確信があるのだ。
端役に至るまでリアルに造形され、青春群像ドラマとしての手応えも確かだ。2時間23分。
★★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2018年3月23日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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