『ニッポン国VS泉南石綿村』 裁判闘争、8年の重さ
前作「またの日の知華」で初めて劇映画に挑んだドキュメンタリー映画作家の原一男監督による13年ぶりの新作。大阪の泉南地域の石綿(アスベスト)工場の元労働者やその家族が国の責任を問うた訴訟を8年にわたって記録したドキュメンタリーである。
石綿は耐熱や耐火に優れた繊維状の鉱石として明治時代から多くの工業製品に利用されてきたが、近年に肺ガンや中皮腫を発症する健康被害が知られ、現在は生産禁止。そんな石綿紡績業の集積地として知られたのが泉南地域であり、最盛期には200社以上が操業していたという。
映画は長尺の2部構成から成り、第1部は加齢と共に発病して健康を損ねた元労働者の男女へのインタビューが中心。彼らの多くは地方出身者や在日朝鮮人であり、中には周辺住民も含まれるが、被害者が次々に亡くなっていく実態が明らかにされる。
この間、第1陣地裁では勝訴するが、高裁で敗訴、第2陣地裁で勝訴と一進一退が続く。そして第2部では、第2陣高裁での勝訴を受けて大臣との面会を求めて厚生労働省に原告団が陳情するシーンで役人が右往左往するなど、第1部の証言中心と違って原告団の行動が視線を引きつける。
中でも「泉南地域の石綿被害と市民の会」の柚岡一禎が建白書を手に首相官邸に赴くシーンは面白い。原監督のこれまでの作品では被写体となる主人公の個性とある種常軌を逸した行動に強く魅せられるが、今回は幾つかのシーンをのぞくと集団訴訟を描いているためこれからどうなるかという緊張感は薄らいでいる。
2014年、最高裁で勝訴した後、原告団は国と和解。当時の塩崎厚労大臣が泉南地域を謝罪に訪れるが、裁判闘争の8年間で病死した原告は21名。そんな彼らの生前の写真を掲げたラストは心に重くのしかかる。3時間35分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年3月9日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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