『ハッピーエンド』 閉塞した現代社会の不安

つねに問題作を発表し、賛否両論を巻きおこすミヒャエル・ハネケ監督の最新作。現代のブルジョワ家庭にひそむ心理と情動の暗い裏面を抉(えぐ)っている。

フランスのカレーに暮らすロラン家は、建築会社を経営している。家長のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は老齢で引退し、長女のアンヌ(イザベル・ユペール)が経営を引き継いでいる。アンヌの息子も専務の肩書きをもらっているが、精神的に不安定で、強圧的な母アンヌと衝突する。長男のトマ(マチュー・カソヴィッツ)は医者で、離婚した妻との間に13歳の娘エヴがいる。

映画は、エヴがスマートフォンで撮影した母親とハムスターの映像で始まる。母親があまりに口うるさいので、エヴは、ハムスターで試した薬を使って、母親を静かにさせたという。

エヴの母親が薬物中毒で入院したあと、エヴは父親のトマに引きとられ、ロラン家の一員となる。エヴは父親に愛人がいることを知り、父親からふたたび捨てられることを恐れて……。

前作『愛、アムール』でトランティニャンが演じた老人は、体の不自由な妻を死に至らしめた。本作で彼が演じるジョルジュも妻を窒息死させた過去をもつ。したがって、本作を『愛、アムール』の後日談と見ることもできる。だが、タッチがまるで違う。

『愛、アムール』には老夫婦の愛情があった。一方、本作の大家族には愛はおろか、感情の交流もほとんど存在しない。その人間性を失った虫のような人々の生態を、ハネケは距離を置いて淡々と描きだす。そこから、黒いユーモアがじわじわと湧いてくる。その冷たい悪意がいかにもハネケらしい見どころだ。

大人たちの世界以上に、子供の世界が閉ざされている。その底に閉塞した現代社会への不安が黒々とわだかまっているように見える。1時間47分。

★★★★

(映画評論家 中条省平)

[日本経済新聞夕刊2018年3月2日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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