『長江 愛の詩』 美しい映像 深遠な謎
映像の美しさにおいて、とびぬけた作品である。それだけでも詩的な高みに達している。だが「愛の詩」という邦題から連想されるような甘さ、通俗性はない。ふつうにストーリーを追おうとすると難解なのだが、それだけの報いはある。
主人公、高淳(ガオ・チュン)(チン・ハオ/秦昊)は父を亡くし、「川辺の習慣」として黒い魚をとらえる。餌をあたえずにいて、それが死んだとき父の魂もあの世へ行く。
ガオは、父の船と運搬のしごとをうけつぐ。上海を出て、翌日、江陰の港で、成金っぽい社長が船の水槽に何かを入れる。希少種の稚魚で違法な物件らしい。船は長江をのぼっていく。
上海を出るときに見た、小船で客をとっていた女が江陰にもいた。川辺の小屋に。ガオはセックスをした。
このあとも、安陸(アン・ルー)(シン・ジーレイ/辛●(くさかんむりに止)蕾)という同じ女が、河の途中に現れる。あるときは信じられないような速さで抜き手を切って河を泳いでいたり、あるときは仏塔の上から声だけが聞こえてきたり、またガオと同じ小屋に住んでセックスしたり。彼女が現れるのは、船のなかから出てきた、手がきの詩集「長江図」(映画の原題と同じ)に詩とともにしるされた地名と同じ所ばかり。
アン・ルーとは、また1989年の日付のある詩集「長江図」とは何なのか?
この謎に答えはない。土地土地でガオによって読まれ、あるいは画面に文字で出る詩の内容――〈私は終点であり源である〉〈私は神秘の証拠だが業の一部ではない〉等々の深遠さ、アン・ルーのミステリアスさをすべてうけとめ、思いをめぐらすたのしみがある。
監督・脚本は、これが第2作のヤン・チャオ(楊超)。撮影は「黒衣の刺客」「花様年華」等で知られる台湾の名手リー・ピンビン(李屏賓)。フィルムで撮影、4Kスキャンした。上映館により4Kと2Kがある。1時間55分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2018年2月16日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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