中華料理千力(東京都足立区)の新メニュー「野菜あんかけラーメン」

北千住マルイの営業担当の境佐知子さんは「野菜関連の常設売り場は家族連れなど多くの客に来てもらえる」と話す。2月から野菜あんかけラーメン(800円)を提供し始めた「中華料理千力」の原里之店長も「野菜メニューは収益増につながる。血糖値の急な上昇を抑えるため、最初に野菜から注文する客が増えてきた」と実感している。

糖尿病予防の効果を証明するには一定の時間が必要だが、同区で事業を担当する馬場優子課長は「野菜を普段の生活に溶け込ませることで、住民の健康、店の利益、区の医療費抑制につなげたい」と意気込む。

食生活を地域ぐるみで変える試みは各地でみられる。長野市は昨年11月、野菜を食べて生活習慣病を予防する「ながのベジライフ宣言」を発表。増加傾向にある糖尿病患者の重症化を防ぐため、飲食店やホテルなどに野菜を使ったメニューの開発を呼びかける。

減塩メニューを地域で増やし、住民の高血圧などの改善につなげようとしているのは大分県。1食当たりの食塩を3グラム未満に抑えた飲食店のメニューを認定する制度を14年に始め、約100店が登録している。

食習慣を改善するには、若い世代への教育も課題だ。沖縄県は野菜摂取の必要性など食育をテーマにした副教材を地元の医師会や栄養士会と開発し、小学校に配布。家庭科や保健などの授業で食育に取り組む。

「沖縄県は昔、長寿日本一だったけど、今は何位だと思う?」「お父さん、お母さんにも野菜を食べるよう伝えてね」――。授業では1985年当時、男女とも都道府県で1位だった平均寿命が縮んだ歴史や、食生活の欧米化などを分かりやすく紹介する。

うるま市立具志川小学校で食育に取り組む栄養教諭の佐和田恭代さんは「野菜の多い郷土料理をつくる家族は減っている。子どもが授業をきっかけに野菜を食べる大切さを家族に伝え効果が波及すれば」と期待している。

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英では加工品 減塩

全国の自治体では歩数に応じて住民にポイントを付与し、地域の買い物に使える取り組みなど、運動に着目した健康増進策は多い。しかし、健康医学に詳しい東京大学の橋本英樹教授は「食習慣を地域ぐるみで変える取り組みはまだ少ない」と指摘する。

自治体が取り組みを進める際の課題は「食だけでなく運動など手を広げすぎると住民の目標が高くなり、挫折しやすい」と注意を促す。小売店と連携した野菜メニュー開発など「日常生活でこれくらいならできると思わせる空気を作れば、生活習慣病対策を取りにくい条件にある住民との健康格差解消につながる」と説く。

英国では2000年代、食品業界に協力を求め加工食品約80品目の塩の含有量を段階的に減らす政策を進めた。少しずつ減塩すれば味の変化に気付きにくく、消費者離れを防ぐ利点がある。結果、心臓病などの患者が減り年約2600億円の医療費削減につなげたという。橋本教授は「国、自治体ともに工夫次第で住民の健康増進を進める政策の余地は十分にある」と話す。

(高畑公彦)

[日本経済新聞夕刊2018年2月14日付]

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