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『犬猿』 兄弟姉妹 過熱する愛憎劇

2018/2/9付 日本経済新聞 夕刊

 吉田恵輔は「関係性」を描く監督だ。「さんかく」(2010年)は三十路のカップルに妹が割り込む三角関係。「麦子さんと」(13年)は自分勝手な母とそれを許せない娘の親子関係。新作は性格が対照的な兄弟、姉妹の4人の愛憎が絡み合う関係を描き出す。

 地方都市の印刷会社でまじめに働く営業マン、和成(窪田正孝)のアパートに、刑務所を出た兄、卓司(新井浩文)が転がり込む。粗暴で金遣いが荒い兄に、弟は頭を抱える。正反対の性格の兄に面従するが、はらわたは煮えくり返る。

 和成の取引先である小さな印刷所を経営している由利亜(江上敬子)。働き者で頭の回転が早いが、太っていて、異性関係に初心だ。妹の真子(筧美和子)は、頭は空っぽだが美貌。印刷所を手伝う傍ら、地方のCMやグラビアなどの芸能活動をしている。ろくに仕事ができないのにチヤホヤされる妹に、姉はいらだつ。

 由利亜は堅実な和成に恋心を抱くが、和成が真子と付き合い始めたことで、嫉妬に燃える。卓司は怪しげなビジネスで大金を手にする。和成の心は複雑だ。

 兄弟、姉妹の憎みあいは物語の進展とともにヒートアップする。内面を繊細に表現する窪田、極端な人物をリアルに演じる新井はさすが。お笑い畑の江上はまさにはまり役で、筧ものびのび演じている。俳優のアンサンブルを作り、微妙な感情を引き出す吉田の演出力に磨きがかかっている。

 4人の物語が交錯する後半、あんなに憎み、罵っていた兄弟姉妹を、他人に批判されると途端に弁護する。「あいつを誰よりも知っているのは自分だ」と固く信じているからだ。幼いころから積もり積もった兄弟姉妹の愛憎とは、そういうもの。吉田の脚本がいい。

 果たして兄弟姉妹は和解するのか、憎みあったままなのか……。過熱する愛憎劇は終幕までスリリングだ。1時間43分。

★★★★

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2018年2月9日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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