『花筐/HANAGATAMI』 戦時下の青春
闘病中の大林宣彦監督が治療を行いながら完成させた渾身(こんしん)の新作である。「この空の花/長岡花火物語」「野のなななのか」に続く「戦争3部作」の第3作に当たる。今回は太平洋戦争直前の唐津を舞台に、戦時下における若者たちの青春の心情を、幻想を織り交ぜて描き出している。
原作は檀一雄が1936年に発表した同名の短編小説。三島由紀夫が愛読したこの小説の映画化を、監督は劇場デビュー作以前の40年前から構想、晩年の原作者から了承を得ていたという。その監督の熱い思いが長い歳月を経てようやく実現した映画である。
物語の主人公は、17歳になる俊彦(窪塚俊介)。アムステルダムに住む両親の元を離れて叔母の圭子(常盤貴子)の屋敷に身を寄せながら、学校では逞(たくま)しい鵜飼(満島真之介)や虚無的な吉良(長塚圭史)と仲良くなり、また肺の病に罹(かか)った従姉妹の美那、女友達のあきねや千歳たちと青春の日々を送る。
原作では場所も時代背景も明かされてないが、映画は場所を唐津、時代背景を1941年の春に設定。「唐津くんち」の祭りの後、12月8日、日本軍による真珠湾攻撃が報道された夜、圭子の屋敷で宴会が開かれるがそんな青春の輝きの中に悲劇が待ちかまえている。
物語は原作をいくらか改変して膨らませているが、映像はいつもの監督得意の世界が展開する。例えば、肺結核を患う美那の幻想シーンや赤いバラと血のシーンなど、生と死のイメージが喚起され、また並んで座る美那と圭子の姿が反転するなど刺激的で面白い。
構成の展開は「序」「破」「急」の三部仕立てによるといわれ、能の四番目ものに世阿弥作といわれる「花(はな)筐(がたみ)」があるが、劇中で圭子が能面をつけて舞うシーンに見られるように、能を取り入れた意欲的な大林ワールドを十分に堪能できる。2時間49分。
★★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2017年12月15日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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