『希望のかなた』 難民問題 皮肉込め描く
フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の新作。前作「ル・アーヴルの靴みがき」でアフリカ難民の少年を登場させて始まった「難民3部作」の2作目に当たる。今日の難民問題を真正面から取り上げ、監督独特のスタイルでアイロニーを込めて描いている。
ヘルシンキの港。内戦下のシリアから逃れてきた青年カーリド(シェルワン・ハジ)は、警察に難民申請を申し込んで、収容施設に送られる。だが、当局がトルコに送還することを知ったカーリドは、旅の途中で生き別れた妹を探すため施設を脱走する。
一方、衣類販売に携わるヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は、仕事と酒浸りの妻に嫌気がさし、在庫処分した金を元手に賭博で儲(もう)けてレストランを始める。最初はやる気のない従業員やビールだけでねばる常連客のため利益もなかったが、工夫を重ねて店は徐々に活気づいていく。
この2人がたまたま出会い、カーリドがヴィクストロムの店で働き始めることで物語は展開する。ヴィクストロムはカーリドのため寝泊まりできる場所や偽の身分証明書を用意し、そんなカーリドに従業員たちも次第に心を開いていく。
その間、カーリドがスキンヘッドのネオナチに襲われるが、その排外主義的な言動や入国管理局で面接する役人の態度など、今日の難民問題に直面するヨーロッパ各国の現状や困窮をストレートに反映させて、見る者に訴えかける。
とはいえ、そんな社会問題を扱いながらも、カウリスマキ監督はカウリスマキ監督である。いつもの抑制された演技や寡黙なセリフ廻(まわ)しに加えて、例えばレストランを繁盛させるため寿司店に看板替えして笑いを誘い、また音楽の演奏シーンをちりばめて楽しめる。
その独特の演出で題材をどう描くのか気になったが見事に消化している。1時間38分。
★★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2017年12月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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