大掃除前にツッパリ運動 関節の「滑り」悪さ解消
肩を柔らかくして腰痛防止 肩甲骨もなめらかに
慌ただしい年末の時期、大掃除や片付けで高いところに手を伸ばしたのをきっかけに、年が明けてから腰痛を発症するケースがある。実は肩関節の「滑り」の悪さが一因だ。肩の関節に着目した運動を取り入れて、全身のなめらかな動きを実現しよう。
物を高い位置に上げる、洗濯物を高い物干しざおに干すなどの腕を上げる動作には、筋力が必要と考えがちだ。ところが筋力が十分強い人でも、思いのほか腕が上がりにくいことがある。
原因は肩関節周辺の血行不良と滑りの悪さだ。身体各部の関節は「関節包」という袋が包み込んでいて、内側にある「滑膜」が滑液という液体を分泌する。これが潤滑油の役割を果たすことで、関節は様々な動きに対応できる。
滑液は栄養素を含んでおり、血管がない関節軟骨に血液に代わって栄養を補給し、関節軟骨や関節包を潤す。関節をスムーズに動かすためには、関節周辺の血行と滑液の適度な分泌を促して、滑りの悪さを解消する必要がある。
なかでも肩関節への働きかけは極めて重要だ。肩関節は360度回転できる唯一の関節。肩関節がなめらかに動かないと腕が上がりにくくなり、本来腕が担うべき動作を補うために体を反らしがちになる。その結果、腰椎に負担がかかって腰痛を引き起こしたり、バランスを崩して転倒したりしかねない。
まずは、自分の腕の上がり具合を確認したい。腕を真っすぐ伸ばしたまま、体側からゆっくり上げる。本来は腕が耳に添えられるはずだ。途中で腕が曲がったり、違和感や痛みが出たりしないかどうかチェックしよう。
現状を認識したら、3種類の運動に取り組もう。
まずは「上伸ばし」(動作(1))から。手のひらを胸に向けて指を伸ばし、脇を締めて肘を曲げる。手のひらの向きを保ちながら、片腕ずつ伸ばして上げられる範囲で高く上げる。左右交互に10回繰り返そう。
続いて「押し込み」(動作(2))。胸の前で手のひらを合わせて合掌のポーズをとる。肘を横に張って、息を吐きながら両方の手のひらを押し合う。10秒程度続けよう。
次は「ツッパリ運動」(動作(3))。肘を曲げた状態で手首を直角に反らす。手首の付け根で空気を押し上げるようなイメージで、手首の直角を保ったまま、相撲のツッパリのように手のひらを反対側の斜め上に向けて押し出し、腕を伸ばす。左右交互に10回ずつ繰り返す。
3つの動作を2セット繰り返したら、再び両腕を伸ばして体側にそろえてから、耳に添えるようにゆっくりと上げてみよう。運動前に同じ動きを試した時と違いを感じることができれば、肩関節の潤滑が進んだといえる。
動作(1)で関節を滑らかにして、(2)で関節をやや開き、(3)で日常動作における肩の滑りを促す。肩関節に加えて、肩甲骨のなめらかな動きも生み出すことができるだろう。さらには腰など他の部位の不調を防ぐことにつながる。
滑りの悪さは、動かすことでしか防げない。忙しい年の瀬も身体への小さな気配りを忘れずに、メンテナンスを心掛けよう。
(早稲田大学スポーツ科学学術院 荒木邦子)
[NIKKEIプラス1 2017年12月2日付]
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