主婦の知恵、ネットで売れる 年100万円の実績も
インターネットの仲介サイトを通して、培ってきた経験や得意技を他人に提供し、お金を稼ぐ主婦が増えている。一般社会とのつながりが薄れがちな彼女たちは、隠れた能力を外に発信し社会に役立てることで充実感を覚えるだけでなく、家事・育児からでは実感しにくい労働の対価を得る喜びも感じているようだ。
「忙しいけど毎日が楽しい」。神戸市灘区の主婦、溝上佳那子さん(34)は満足そうに話す。今春、個人が持つ経験や技を仲介するサイト「ココナラ」や手作り品売買サイト「minne(ミンネ)」に登録。「ロノカラム」名で自作のアクセサリーを出したところ、注文が相次いだ。
販売するのはピアスやイヤリング、ヘアゴムなど。ゲル状の樹脂に花びらや光る貝殻などをちりばめ、紫外線で固めて作る。作り方はネットや本を見て独学で習った。値段は500~1800円と安く、見た目がかわいいと好評だ。出品するとすぐに売れるほどの人気で、中には同じものを複数購入する人もいる。
溝上さんは3児の母。長女(4)の出産を機に仕事を辞め専業主婦に。夫は出張が多く月の半分は不在。子どもが寝た夜間を有効活用できないかとアクセサリー作りを思いついた。もともと手先が器用で、長女の服を作るのも得意だ。
この8カ月間に出品した作品は300強。売り上げも23万円に達した。収入は頑張ってきた自分への褒美ともいえるが、溝上さんは「作品を作れるのも家族のおかげ。みんなでおいしい物でも食べに行きたい」と家族への感謝を忘れない。
年間100万円以上も稼ぐスゴ腕の主婦もいる。夫と2歳の息子と暮らす神戸市西区の川上奈々さん(24)だ。得意技は似顔絵。3年前からココナラに出品する。全国から注文が舞い込む売れっ子に。
絵は全くの素人だった。ただ、小さい頃から漫画を描くのが好きで、ノートの余白に描いては友達から喜ばれた。高校卒業後、サービス関係の会社に就職。仕事の傍ら、友達に頼まれて似顔絵を描いたことが川上さんの生活を一変させた。
ほんわかした作風が評判となり、口コミで注文が殺到。腕試しのつもりでココナラに出品した。注文は結婚記念や還暦・退職祝いなど幅広い。写真を送ってもらい、顔の特徴をとらえて描く。似顔絵の収入は全て貯蓄に回す。「将来の教育資金に充てたい」と川上さんは堅実だ。
ネットで生徒を募り1対1で特技を教える主婦もいる。東京都世田谷区の主婦、奥沢典子さん(63)は磁器に絵を付ける「ポーセリンペインティング」の講師資格を持つ。2年前に個人レッスン仲介サイト「サイタ」に登録し、受講希望者を募集している。
教える場所は自宅近くに借りる集合住宅の一室。以前から近くの人を対象にフラワーアレンジメントを教えているが、ポーセリンは知名度が低く自宅周辺だけでは生徒が集まりにくいため、サイタを通して幅広く集客することにした。
サイタを通してレッスンに来た生徒はまだ3人と少ないが、いずれも神奈川県など遠方から。「サイタは全国が対象なので広くから生徒を集められる。ポーセリンの知名度が上がれば、間違いなく生徒も増えるだろう」と奥沢さんは期待する。
ネットを活用する主婦は増えているのだろうか。ココナラの場合、2012年夏のサービス開始から5年強で、技を提供する登録者は延べ10万人弱に達した。毎年倍近い伸びだ。男女比は半々で、女性の3分の1は主婦とみられるという。
ココナラの南章行社長は「主婦の間で埋もれる技はたくさんあり、潜在需要を開拓する余地はまだ十分にある。自分にお金を稼げる能力があり、社会や他人から求められる存在だとわかれば、彼女たちは安心する」と指摘する。
これまで主婦が持つ隠れた能力を生かす場は乏しかった。そうした場を提供するネット社会の到来により、今後自分の能力を試そうと考える主婦は増えそうだ。
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自ら値付け 自由度高く 「実績積んでから値上げを」
ネットで個人の技や能力を売り買いするサービスにクラウドソーシングがある。これは主に企業が発注元になり、個人の技を募る仕組み。これに対し、ココナラやミンネなどはネット上での個人間取引のフリーマーケット。出品者が主体となって売り込むことができる。自分で値付けもできるので自由度は高い。
ただ、技や能力があっても売買が成立するとは限らない。需要がないのに出品しても応募はない。商品につながるような熟練の技もないのに最初から高い値を付けたら、安い値段を付けたライバルに負ける恐れもある。ココナラは「最初は安い値段から始め、実績を積んでから値を上げたほうがいい」と助言する。納税にも注意が必要。専業主婦の場合、所得が一定額を超えると確定申告をする必要がある。ココナラも会員に注意を促している。
(高橋敬治)
[日本経済新聞夕刊2017年11月20日付]
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