『エンドレス・ポエトリー』 空想で彩る精神的自伝
アレハンドロ・ホドロフスキー監督による自伝的映画の第2作。前作『リアリティのダンス』では幼少年期を扱ったが、本作は青年期の彷徨(ほうこう)を描きだす。今年88歳になった彼だが、奔放な想像力の飛躍はとどまるところを知らない。
舞台は1950年代のチリの首都サンティアゴ。主人公アレハンドロの父は、娼婦や酔っぱらいがたむろする下町に店を構える。独裁的に振る舞う父に反抗して、アレハンドロは母の実家に行き、従兄のリカルドと意気投合し、芸術家志望の仲間たちと勝手気ままな生活を謳歌する。
そんななか、真っ赤な髪の豊満な女詩人ステラと出会い、詩と酒と愛欲の日々に溺れる。だが、リカルドが親との対立で首吊(つ)り自殺したことから、真剣に生きることを決意し、詩人エンリケとの友情を育む。しかし、エンリケの恋人と関係したことに罪悪感を抱き、サーカスの道化師となって、自分の人生を笑いのなかで見世物に仕立てあげる。
そして、実家が火事で焼けたことを機に、父との関係を清算して、パリに旅だとうとするが……。
現実をもとにしながら、それを空想で自由に彩り、精神的自伝を作りあげるという試みは、フェリーニの『アマルコルド』や寺山修司の『田園に死す』を連想させるものだ。ただ、フェリーニより破天荒で、寺山よりドギツク、エロスと血の刺激に満ちている。
自伝的な興味に加えて、家族の抑圧と恩恵、詩という天職の発見、セックスへの偏執的関心、南米という土地への愛、死を背景にしたカーニバル的想像力の爆発、サーカスや人形劇など大衆的舞台芸能への嗜好など、ホドロフスキー的主題のてんこ盛りである。
初めてコンビを組んだ人気撮影監督クリストファー・ドイルの貢献もあり、極彩色のスペクタクルとしても見応え十分だ。2時間8分。
★★★★
(映画評論家 中条 省平)
[日本経済新聞夕刊2017年11月17日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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