フグ漁獲量日本一 輪島市、白子やすしを食べ尽くす
フグといえば市場での取扱量日本一の山口県下関市が思い浮かぶが、漁獲量5年連続日本一となっているのが石川県輪島市だ。貴重な地元の水産資源を生かそうと、市では「輪島フグ」のブランド化に取り組み始めた。市内で3240円の統一料金メニューも登場。手ごろな価格で、フグ三昧が楽しめる。
「フク」(下関など)、「テッポウ」(大阪)など地方によって様々な呼び名があるが、輪島では「デブク」というそうだ。「由来は分からん。腹が出ているからかな」と石川県漁業協同組合輪島支所の舟見悟統括参事(55)は笑う。
2015年度の輪島市の天然フグの漁獲量は440トンで全国トップ。「トラフグ、マフグ、ゴマフグなど種類は様々。1年中とれるが、産卵期の4月下旬~5月は岸に寄ってくるので、たいりゅう(大漁)だね」と舟見参事はいう。建設業のかたわら漁業もしている刀祢建設の刀祢利雄社長(69)も「これまでの最高は、うちの定置網だけで1日に30トンとれた。能登の海はフグの宝庫。産卵場所があるのかもしれん」と話す。
しかし不思議なことに、これまで地元では一夜干しにするくらいで、フグを食べる文化がほとんどなかった。「ブリ、カニ、アワビ……。ほかにも海の幸がいっぱいあるからかな」と同社長。フグは地元の冷凍処理業者などを通して、大阪や九州などに運ばれていたそうだ。しかし15年春に漁協が市内に水産加工処理施設を建設し、毒を処理した後の「身欠き」の出荷が可能になったこともあり、市では今春からフグを使って街おこしに乗り出した。
目玉は3240円で手軽にフグが味わえる料金統一メニューだ。ふぐ料理が3品以上、その他を合わせて5品以上が条件で、市内の9店が独自メニューを提供している。その中の1軒である美喜(みき)寿司を訪ねた。使っているのは最高級のトラフグではなく、マフグだが、店主の松野克樹さん(51)は「天然だけに海の滋養をたっぷり食べて育っている。それだけおいしいはず」と言い切る。
同店で出しているのはフグのしゃぶしゃぶ、フグの唐揚げ、フグの白子、フグの炙(あぶ)り握りずし、刺し身の4点盛り、もずく酢、紅ズワイガニのカニ味噌の7品(要予約、つき出しは季節によって異なる)。しゃぶしゃぶから口にすると、フグ独特の弾力ある歯応えがあり、ポン酢としっかりと合う。「鶏肉と白身魚の中間ぐらいの食感。それを楽しんでほしい」と松野さん。白子はクリーミーで口の中でとろける。
メインは炙り握りずし。「フグは炙ると香ばしさがぐっと増す」といい、ほんのりとした優しい甘みが口の中で広がった。「トラフグだと高根の花かもしれないが、そのほかのフグだとリーズナブルに味わえる。手軽にフグの醍醐味を味わってほしい」
和食店、やぶ新橋店では料金統一メニューのほか、炙りフグ丼も人気だ。ご飯の上に錦糸卵とノリを散らし、肉厚のフグ(マフグ)の切り身を豪快に盛りつける。「フグは低カロリー、高タンパクでヘルシーな食材」と店主の木村隆明さん(45)は説明する。
フグは盛りつけてから丼ごとバーナーで炙るという。作り方も豪快だ。「そうするとフグもご飯もホカホカになる」。フグは炙ると香ぼしさが増すだけでなく、透明な身が白く色づく。「黒や赤の輪島塗のおわんにもよく映える」と話す。
輪島で有名な朝市を歩くと、「フグバーガーはいかが」という威勢のいい声が聞こえてきた。声の主は朝市の出店、ちょこっとあさいちの門脇委佐子さん(64)で、「漁獲量日本一ということで作ってみた」。マフグの唐揚げをパンに挟んでいるが、唐揚げには秘密の味付けをしてあるそうだ。「観光客はもちろん、地元の方にも支持していただいている」と笑顔だ。
「街おこしを始めて半年余りで、これまでほとんどなかったフグ扱い店舗が、統一料金メニュー以外の店も含めて46軒に増えた」と市観光課。フグは輪島の新たな食文化として、ウエーブを巻き起こしつつある。
天然フグの市町村別漁獲量(2015年度)は輪島市のほか、同じ能登地方の石川県志賀町も5位に入っている。県別で見ても、石川県が692トンで、島根県の483トンを抑えてトップだ。
石川県全体を見渡してもフグを食べる文化はあまりないが、白山市や金沢市などではフグの卵巣をぬか漬けにした珍味が郷土食として作られている。フグの内臓には毒があるが、2年ほど塩漬けとぬか漬けを行うことで不思議なことに毒が消えてしまうそうで「奇跡の食材」ともいわれている。
(金沢支局長 鉄村和之)
[日本経済新聞夕刊2017年11月14日付]
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