動くマネキン、もはやロボット AIで会話も
百貨店などのマネキンがひそかに変化している。店頭で黒子のように立っているだけと思いきや、手足を動かしたり会話をしたり。中には見つめる相手を見つめ返して分析するものも。進化系マネキンに会ってみた。
「チェックインはどこですか」「5番カウンターにお越しください」
今月初め、幕張メッセ(千葉市)で開催された見本市「CEATEC(シーテック)ジャパン2017」。最先端の家電・IT(情報技術)を展示する見本市に、マネキン大手の七彩(京都市)は会話するマネキンを展示した。名前は彩乃七香、29歳。航空会社レインボーエアラインの案内係という役回りだ。
内部にはベンチャー企業のネクストリーマー(東京・板橋)と共同開発したAI(人工知能)が組み込んであり、質問にてきぱきと答える。それに合わせ内蔵のプロジェクターで映し出された口がぱくぱく動く。物珍しさもあり、周りには人だかりができた。
とはいえ、まだ見習いの身。難しい質問が来ると「私の知識が少なくて理解できないようです」と素直に謝る姿は初々しい。「今は試作段階だが、将来は多言語にも対応できるように進化させたい」(一ノ瀬秀也商品本部長)
かつては百貨店や専門店の店頭に立ち流行のファッションを着こなしていたマネキンには、逆風が吹いている。消費がインターネット通販などに流れ、晴れ舞台だった百貨店の売り上げが減少。出番も減っている。そこで何とか消費者の目をひき付けようとやっきになっている。
「最近は伸縮性の高い素材も増えている。人の動きを再現し、着用時のイメージを分かりやすく伝えたい」。ロボットメーカーと組み、動くマネキンを開発した吉忠マネキン(京都市)。川野泰・総合企画本部副部長は開発意図を語る。歌舞伎などの黒子から「QLOGO」と名付け2014年、米国で発表した。
首や左右の肩、肘、膝などに小型モーターを内蔵し、手足や頭を動かすことができる。コントローラーで複数のマネキンを連動させれば、動きを合わせて踊ったり、走ったりと様々な演出ができる。
既に大手百貨店のディスプレーなどに採用実績がある。「東京五輪を控え、動きを求められる展示が増えるはず。もっと複雑な動きができるようにしたい」と川野さん。
見られるだけのマネキンから、逆に消費者を冷静に分析する新タイプも登場した。
七彩が開発した「ビューマネキン」は首に小さなカメラのレンズが埋め込まれている。画像認識の機能を使いマネキンの前を通ったり、興味を示したりした人を撮影。年齢や性別を推定して記録する。プライバシーに配慮し、画像は保存しないという。
こうしたデータを積み上げれば、どんな消費者が興味を示したのかを分析でき、販売戦略立案に役立つ。10月半ばには東京都内の商業施設で店頭に立つ予定だ。山田三都男社長は「次世代マネキンの有力候補」と期待をかける。
マネキンは時代や流行に合わせ、姿を変えてきた。七彩が昨年開設したミュージアム(大阪市)を訪ねると、その歴史をたどることができる。
輸入品に代わり国内で製造が始まったのは大正末期。京人形づくりの伝統がある京都が中心地になった。戦後の高度成長に合わせ製造が盛んになっていく。
70年代には人間をそのままかたどったスーパーリアルのマネキンが登場。バブル期には当時のファッションを反映し怒り肩が主流に。最近は、顔の表情を消した抽象タイプが大半を占めているという。
最先端の進化系マネキンを見ていると、黙って我慢強く立っているだけだったマネキンが自己主張を始めたように思える。彼らが活躍すれば、消費の現場はもっと楽しくなるかもしれない。
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リアルすぎると不気味に
人形やロボットの世界では「不気味の谷」というパラドックスがよく語られる。表情や動きが人間に近づくにつれ、親しみも増していく。ところが、一線を超え人間と見まがうほどになると、逆に不気味さを強く感じるようになる。
10年ほど前、吉忠マネキンは高齢者を忠実に再現したマネキンを開発した。マネキンを目にした中高年からは「まるで自分を見ているようで不愉快」と不評だったという。
七彩のミュージアムでは、山田社長のマネキンが待ち構えていた。特殊な素材で顔や手の型をとったその姿はリアルそのもの。顔を見た瞬間、目が合い、思わずぞくっとした。
(田辺省二)
[NIKKEIプラス1 2017年10月14日付]
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