『サーミの血』 差別と偏見、自由への渇望
どの国家や文化にも支配民族による少数民族の差別や排除の歴史が見られる。ヨーロッパの国々も例外ではない。そんな差別と偏見が強かった1930年代のスウェーデンを舞台に、サーミ人の少女の生き方を静謐(せいひつ)な映像で描いている。
サーミ人という呼称は馴染(なじ)みが薄いが、ラップランドでトナカイ遊牧をするラップ人のこと。サーミ人は古くから北極圏に住む固有の言葉を持った先住民族だが、現在は北欧3カ国とロシアに居住する。
妹の葬儀のためラップランドにきた高齢のクリスティーナ(マイ=ドリス・リンピ)。サーミ出身の彼女の本名はエレ・マリャ。長年にわたって出自を隠してスウェーデン人として暮らしてきた。そんな彼女の回想から物語は始まる。
少女時代のエレ・マリャ(レーネ=セシリア・スパルロク)は、妹と一緒に寄宿学校に入る。当時のスウェーデン政府はサーミ人を劣等人種として隔離政策をとり、子供たちも公立学校から排除していた。映画でサーミ人の人種的特徴を調べるシーンが出てくるが、何ともおぞましい。
そんな時代を背景に映画が焦点を当てるのは、エレ・マリャの希望と絶望だ。自らの出自への誇りと偏見による恥辱が混ざり合った感情、その反動としてのスウェーデン人への憧れ。その根底には自由に生きることへの渇望が見てとれて心に響く。
エレ・マリャは夏祭りで知り合った青年を慕って故郷を捨て都会に出ていく。その生き方に、ダグラス・サーク「悲しみは空の彼方に」の黒人女性サラ・ジェーンの姿が想起される。
サーミ人の役柄はすべてサーミ人が演じ、アマンダ・シェーネル監督の父親もサーミ出身という。その意味で撮らざるを得なかった世界である。昨年の東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞に輝いた。1時間48分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2017年9月22日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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