セルフメディケーション税制 対象少なく、認知進まず今年1月開始 目薬や胃潰瘍薬、公募で拡大へ

セルフメディケーション税制の対象薬品が並ぶドラッグストアの陳列棚(東京・千代田)
セルフメディケーション税制の対象薬品が並ぶドラッグストアの陳列棚(東京・千代田)

市販薬を購入すると税控除できる「セルフメディケーション(自主服薬)税制」。患者が市販薬を使うことで通院などを減らして国の医療費を抑える狙いで1月に始まったが、認知度は低い。対象品目が市販薬の一部にとどまっていることも一因だ。消費者が希望する医薬品を市販化できる公募制度も導入されたものの、どうやって関心を高めるかが課題だ。

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「お客さんにも月に1回聞かれるかどうか。店頭販促(POP)も外してしまった」。東京都千代田区のあるドラッグストアでは最近、2カ月ほど前までつけていたセルフメディケーション税制のPOPを取り外した。

市販薬で控除

セルフメディケーション税制は従来の医療費控除の特例だ。医療用から転じた効き目の高い市販薬「スイッチOTC医薬品」の購入額が年間1万2千円を超えると、税控除の対象となる。10万円超が対象の医療費控除よりハードルが低い。

ただ制度開始から8カ月たった薬局で声をかけても知らない人は多い。手術を受けて医療費への関心が高まり、新しい税制を知っていた50代の女性会社員は「最初は良いなと思った」というが、「対象品が限られている」と残念がる。

実際、税制の対象となる医薬品は現在、解熱鎮痛薬や風邪薬などの主力ブランドは含まれるものの1万品目以上とされる市販薬のうち約1600品目のみだ。

背景にはこうした対象を決める厚生労働省の検討会議がこれまで非公開で「科学的根拠ではなく不利益になる団体の反発で進まなかったことも多かった」(同省)ためだ。医療用の成分を含む医薬品の市販化はこれまでわずか83成分だ。

こうした中、少しでも対象品目を増やそうと、16年からスイッチOTC医薬品の希望成分の公募が始まっている。これまで消費者から寄せられた22成分が検討対象になっている。

7月に開かれた厚生労働省の検討会では目薬などに使われる5成分を対象にするかどうか検討。このうち既に市場に類似品がある目薬の「ヒアルロン酸ナトリウム」や胃潰瘍治療薬の「レバミピド」など4成分が有力候補で、今後政府の電子サイト「e―Gov」で意見を募集し、早ければ11月の検討会で市販化のメドがつく。

候補成分で今後注目されるのは、例えば片頭痛に効く「リザトリプタン安息香酸塩」。片頭痛の人は市販の頭痛薬で代替していたが認められればより効果的な薬を使えるようになる。

認知症薬の要望

胃潰瘍や消化管潰瘍に効く「オメプラゾール」なども胃薬の「ガスター10」(商品名)などに含まれる「ファモチジン」より効果が高いとされる。アルツハイマー型認知症向けの大型薬「アリセプト」(同)に含まれる「ドネペジル塩酸塩」の要望も出た。

「海外では市販薬の降圧剤などが議論になっていない」(みいクリニック代々木の宮田俊男院長)との指摘もある。日本OTC医薬品協会の杉本雅史会長は「将来的には全市販薬を対象にしたい」と要望する。

店頭で販売する薬剤師が説明できるかどうかや患者が自己判断できるかなどハードルは多い。だが国の医療費を抑えるセルフケアのためには必要な議論だ。

この税制は5年間は試験導入の位置づけだ。生かせるかどうかは、消費者の認知度を上げるため早い段階で議論を深める必要がある。

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医療費控除と使い分け 確定申告前に比較

新たに導入されたセルフメディケーション税制と、これまでの医療費控除。どうやって使い分けるのがいいのだろうか。

例えば東京都足立区在住の20代の女性会社員は平日の仕事が忙しく、風邪や生理痛の薬はほとんどドラッグストアで買う。新税制の対象となる薬の購入額が年間で5万円だと、3万8千円が所得控除の対象となり、課税所得額が400万円ならば確定申告で1万1400円戻ってくる計算になる。

このほか通院や入院の費用も合わせた医療費合計が15万円ならば、10万円を超えた5万円が医療費控除の対象。還付額は1万5千円となり、医療費控除の方が得だ。

医療費合計が同じ15万円でも新税制対象の医薬品代が7万円ならば、所得控除の対象は5万8千円で医療費控除の5万円を上回る。還付額は1万7400円となるため新税制を適用した方がいい。

新税制の適用は、会社の定期健康診断などを受けていることが条件で、所得控除の上限額は8万8千円など制限もある。医療費控除と併用はできないため、どちらを適用するかは消費者が選択する。確定申告の前に比較して検討してみよう。

(西岡杏)

[日本経済新聞朝刊2017年9月4日付]

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