旭川焼きそば しょうゆ味の米粉麺、タレの香味絡む
北海道中央部の旭川市に地産地消を志したメニューがある。旭川しょうゆ焼きそばだ。しょうゆダレは旭川産。同市は意外にもコメどころでもあり、麺の原料には米粉を使う。具材は市内産や道内産を極力使用する。お好み焼き店、鳥料理店、居酒屋……。提供店ごとに多彩な味が楽しめる。
JR旭川駅から車で約15分の4条通り沿いにあるお好み焼き店、粉もんず豊岡本店。店内は全て個室で、焼きそばはテーブルの熱した鉄板に載せられた。「皿ではなく鉄板で食べる」。経営するコナズコーポレーション(旭川市)社長の森藤博行さん(52)は出身地の大阪風にこだわる。
最も注力するのは麺で、ストレートで中太の生麺を使う。注文を受けてから厨房でゆでて、水で締めた後、具材と一緒に鉄板で一気にいためる。食べてみるとコシのある仕上がりで、鉄板焼き向けに独自調製したしょうゆダレのほのかな香味が絡まる。京都から取り寄せた九条ネギも合う。
九条ネギ以外は、豚肉やキャベツ、卵など市内・近郊の地元産づくしだ。市内中心部にある2条昭和通店では、熱したプレートの皿に載せて提供するしょうゆ焼きそばが1日8食程度出る。「今年になり、ソース焼きそばと逆転した」と手応えを語る。
旭川しょうゆ焼きそばは3つのルールを順守したご当地グルメだ。旭川産のしょうゆダレや、旭川産の米粉と道産の小麦を配合した麺を使用するだけではない。具材として旭川産や北海道北部の食材を1品以上使用することも求める。
2010年、市内の食品関係企業で組織する旭川食品加工協議会が市内の食イベントで試作・販売したのがきっかけで生まれた。「言い出しっぺ」は食品加工会社、大金(旭川市)社長で、同協議会会長を務める金田道従さん(65)だ。「地元を表現する料理を作りたいという思いがあった」。
3ルールを規定したのは特徴を出すのが狙い。最初の完成お披露目会では「焼きうどんのようだ」との酷評もあったが、翌11年には市や商工会議所、観光協会、地元金融機関のトップを顧問に迎えた「旭川しょうゆ焼きそばの会」が発足し、街をあげて旭川を盛り上げようと動き出した。
会の会長も務める金田さんは「ソース焼きそばに比べて薄い味付けであっさりしている」と話す。16年秋までの4年間で約30万食を達成した。現在、市内で常時提供する参加店舗は10店ある。各店は独自の具材や味付けを展開する。
中心街から車で約20分の住宅街にある鳥料理店、とり丸亭は鶏の空揚げ2個をトッピングする。知床産の鶏肉、旭川産の米粉を衣に使う塩味の空揚げ(塩ザンギ)だ。ほかにスクランブルエッグ、千切りキャベツなどを載せ、皮付きポテトを添えてある。
味付けを特徴付けるのは日本醤油工業(旭川市)に製造を委託した特製のしょうゆダレだ。かつお節やホタテ貝エキスなどを加え、うま味を出す。店内で食べてみると揚げたてでパリパリのジューシーな空揚げに誘われ、しょうゆ風味の麺がサクサクと腹に入った。持ち帰り主体のため水分の出やすい野菜は省いてある。
店主の橋本欣人さん(49)は「週30~40食出る」と話す。国道から奥まった場所に店を構えるが、観光客が焼きそばを目当てに車やバイクで訪ねてくることが少なくないという。
消費拡大につながる食育の動きも出始めた。旭川市立東陽中学校は6月、2年生の調理実習の対象に初めてしょうゆ焼きそばを選んだ。地元で生産が盛んな食材を学び、生徒自らがレシピを考案。当日はチンゲンサイやトウモロコシ、ラム肉などを使った発想豊かな焼きそばが各班で出来上がった。
企画した家庭科教諭の光富友希さん(24)は焼きそばの会に打診し、ルールに規定するしょうゆダレや米粉麺の提供を受けた。生徒からは「家でも焼きそばを作ってみたい」などの反応があり、「来年も実習に取り入れたい」と話す。
協議会は9月開催の食イベントで、豚肉・タマネギ・キャベツを使うベーシックな一品を販売し、焼きそばの会はケチャップ味を付けたナポリタン風の一品を試す。原点回帰と冒険の品で消費者の反応をみて料理開発に生かす考えだ。
旭川しょうゆ焼きそばを特徴づけるしょうゆダレのベースになっているのは日本醤油工業(旭川市)が市販する「風雪カムイ」だ。カツオをふんだんに使用したつゆで、焼きそば提供各店はこれを使って独自のタレを調製する。
同社は明治創業の酒造店を前身とする1944年設立の老舗企業で、キッコーマンの関連会社として市内で唯一、しょうゆ製品を供給する。ご当地グルメの旭川ラーメン、チャーシューの代わりにホルモンを使う旭川しょうゆホルメンなども支えている。
(旭川支局長 稲田成行)
[日本経済新聞夕刊2017年8月15日付]
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