白内障は早めの手術を 老眼治療の同時選択の道も
水晶体の代替にレンズ、わずか10~20分で終了
白内障は目の中でレンズの働きをする水晶体が濁って見えにくくなる病気だ。老化によって誰でもいずれは発症するが、様々な原因で若い時期に白内障が進行するケースもある。白内障は手術で濁った水晶体を除去し、眼内レンズを埋め込むことで完治する。最近は多焦点の眼内レンズを使うことで、白内障と老眼を同時に治す例も徐々に増えている。
東京都内に住む会社員のAさん(55)。もともと近視で、約10年前からは老眼も進み始めた。普段の生活では度数を弱めに調整した近視用メガネを、クルマを運転するときは度数の強いメガネをそれぞれ使っている。書類やスマホ画面など近くを見るときはメガネを外す。
Aさんは今年に入り、右目がかすんで見えることに気づいた。特に日差しなど光を見ると以前よりまぶしく感じて見えにくくなるのを自覚するようになった。Aさんは「老眼が進んでメガネが合わなくなったのだろう」と思ったが、念のため眼科医院を訪ねた。
「白内障ですね」。眼科医はAさんの右目を観察して即答した。詳しく検査すると、自覚症状のない左目も初期の白内障であることがわかった。緑内障や加齢黄斑変性など加齢に伴う白内障以外の症状は今のところないと聞いて少しほっとしたが、こんなに早く白内障になるとは思っていなかった。
白内障は水晶体がたんぱく質の変性を起こして白っぽく、あるいは黄色っぽく濁ってしまう病気だ。水晶体を通る光が妨げられて視力が下がったり、物がかすんだり二重に見えたり、光をまぶしく感じたりする。大半は加齢に伴うもので、50代で約6割、60代で8割、70代で9割、80代ではほぼ100%が白内障になるといわれる。
若い年代で発症する例もある。遺伝的な理由やアトピー性皮膚炎に伴う若年性白内障や、顔を殴られたり野球のボールを目に当てたりすることによる外傷性白内障がある。また、加齢性の白内障では糖尿病の人や、強い近視の人は発症する年齢が低くなる傾向があるという。
いったん濁ってしまった水晶体を元に戻したり、進行を確実に遅らせたりする薬は今のところない。手術で水晶体を取り出して、その代わりに眼内レンズを入れるのが現在唯一の治療法だ。白内障手術は全国で年間140万件以上行われている、最も実施件数の多い外科手術の一つだ。
手術では黒目と白目の境目のあたりを少し切り開いて、超音波によって水晶体を細かく砕いて吸い出す。水晶体があった場所に透明の眼内レンズを代わりに入れて見えるようにする。手術自体は10~20分で終了する。日帰り手術も広く行われている。
Aさんの場合は、医師と相談し、日常生活を送る上で大きな不便はないことから、すぐに手術をすることは見送った。4カ月ごとに検査をして、白内障が進行する様子を観察しながら、手術の時期を判断することにした。
白内障手術を多く手がける、みなとみらいアイクリニック(横浜市)の荒井宏幸理事長は「白内障手術は以前と比べ安全で後遺症のリスクも極めて低くなった。生活上不便を感じるようになったら、手術をためらう必要はない」とアドバイスする。
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費用は片眼5万円程度 老眼同時治療は保険外
健康保険が適用される白内障の手術では「単焦点」の眼内レンズが使われる。名前の通り、焦点の合う距離が1カ所で、多くは遠くに焦点が合うようにする。この場合、手術後に近くが見えにくくなるため、パソコン用のメガネや老眼鏡が必要になる。手術費用は、3割負担の場合で片眼で5万円程度。
保険適用にならないため費用は高額となるが「多焦点」と呼ばれる眼内レンズを使う選択肢もある。遠くと近くの2カ所、あるいは中間距離にも焦点が合うように設計されている。この場合、手術後はメガネ無しで日常生活ができるようになる人も多い。白内障の治療と併せて老眼治療ができることになる。
目の水晶体は、周囲の筋肉の働きで厚みを変えてピントを調節する。多焦点眼内レンズの場合はこうしたズーム機能はない。網膜に映る遠近両方の物体の像のうち、脳が見たい方を認識する「同時視」の仕組みを利用する。遠近両用コンタクトレンズと同じ原理だ。
多焦点眼内レンズの手術を行う医療機関の数はまだ限られており、手術費用にも幅がある。みなとみらいアイクリニックの場合、手術費用は片眼で約80万円。多焦点眼内レンズの種類によっては、生命保険の先進医療特約の対象になるものもあり、保険の加入者は給付金が受けられる。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2017年8月3日付]
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