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函館スイーツ、あまーい誘惑 明治の風味

2017/7/18付 日本経済新聞 夕刊

五島軒は明治の創業当時のレシピで作ったソーフケーキを復活させた(上段のケーキ、函館市の五島軒にて)

 昨年春の北海道新幹線の開業で注目が集まった函館。観光客をひき付けようと、函館市と沿線の地元の菓子職人らが腕を振るう。レシピを忠実に再現して明治時代のケーキを復活させたり、地元食材を使ったアイデアスイーツを販売したりしている。いま函館はご当地スイーツが花盛りだ。

 函館を代表的する老舗レストラン、五島軒でじわり人気が出ているスイーツがある。1879年(明治12年)の創業当時から作られてきた「ソーフケーキ」だ。

 カレーで有名な五島軒のスイーツは水準が高く、以前から知る人ぞ知る名品と呼ばれていた。そこで同社は人気スイーツ9品目を選んで「ブーケ」シリーズとして2016年11月に販売を始めた。ソーフケーキはシリーズの基幹商品だ。

 初代料理長の五島英吉氏が故郷の長崎のカステラを基に作り上げたといい、外見が似ている。函館は国際港だったため外国航路の船内で販売されていた。外国人の間でも人気があったという。いつしか一般向けには販売されなくなったが、残っているレシピを忠実にたどって再発売した。五島軒の歴史と文化の詰まった逸品だ。

 では試食。濃厚なバターの風味としっかりした甘みが印象的だ。軽くさっぱり感が前面に出る最近のスイーツとは一線を画す。再発売するとそのおいしさが口コミで広まった。新幹線で訪れる客には、お土産とする人もいる。「今ではブーケシリーズのトップ」(原田健吾取締役)という。

函館空港のレストラン「ポルックス」では、函館名産の昆布を使った海藻ゼリーが人気

 函館は昆布の名産地だ。昆布を使ったスイーツも今年2月に登場した。内外の航空機が発着する函館空港にあるレストラン、ポルックスが提供する「海藻ゼリー」だ。

 食物繊維を多く含む、がごめ昆布が原料だ。がごめ昆布のエキスを固めた。ハーブシロップをたっぷりかけてからレモンを絞ると、ゼリーがピンク色に染まる。口に入れると、くどくない甘みとさわやかな酸味、そしてハーブの香りが広がる。プルンとしたゼリーの喉越しは快感だ。堀川雄司料理長は「気温が上がる夏場に注文が増えるのでは」と期待する。

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末廣庵は、ゆるキャラのキーコをモチーフにした「Ya!キーチョコ」を商品化

 スイーツを求めて足を伸ばす。函館からローカル線で西へ1時間。道内最南端の北海道新幹線の駅、木古内駅がある木古内町でも新たなスイーツが生まれた。同町のゆるキャラ「キーコ」をイメージした焼き菓子「Ya!キーチョコ」で、老舗和菓子店の末廣庵(同町)が商品化した。

 キーコは同町で肥育するあか毛和牛がモチーフで、体の色が赤い。「Ya!キーチョコ」も最中の生地を赤くするため、地元産の黒米の粉末を練り込んだ。中身の焼きチョコの茶色は焼き肉をイメージしてある。販売店は木古内町の道の駅など一部に限定した。「どこにでもあるお土産品ではなく、木古内に来てもらって買うお土産品にしたい」と竹田光伸社長は話す。

 最中のパリパリとした歯応えの後に、チョコの苦さと甘さが広がる。和菓子と洋菓子を合わせた意外な味わいに、竹田社長の菓子職人としての鋭いセンスを感じる。

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 北前船の寄港地で、北海道唯一の城下町、松前町の菓子も函館で花開いた。老舗菓子店の北洋堂は4月、函館市中心部にオープンした複合施設「シエスタ ハコダテ」に進出した。これまでは松前町でしか買えなかった同店の商品が函館で楽しめる。

 北洋堂は創業が1937年の老舗で、現在は3代目の木田一店主が切り盛りする。木田店主は「函館進出は先代店主の悲願で、実現できて感無量だ。函館で松前スイーツをアピールして商圏を広げたい」と意気込む。

 人気商品の一つが「純生桜ロール」だ。桜葉の入ったブリュレと生クリームを、桃色のスポンジでくるんだケーキだ。松前町にある松前城は、1万本の桜の木に囲まれた桜の名所。その桜を前面に押し出して6年前から販売している隠れた名産品だ。スポンジはふわふわと柔らかく口のなかで溶けるような感じだ。桜の葉の風味がアクセントになっている。

 函館山からの夜の眺めは世界三大夜景に数えられる。世界的な観光地である函館には、老若男女の心をひき付けるスイーツもある。お忘れなく。

<マメ知識>道南の菓子紹介冊子も
 函館では官民が協力して函館スイーツをアピールしている。函館市や函館商工会議所、菓子の業界団体からなる函館スイーツ推進協議会は4月に道南の菓子を紹介する冊子「KA・NO・KA」を発行した。今後も年1回発行する。函館スイーツのロゴマークも今夏に刷新、存在感を高める。
 新幹線開業を追い風に、2016年度の同市の観光客数は過去最高の560万人に上った。「道南には和菓子と洋菓子を楽しむ文化が根付いている。優れたスイーツを多くの観光客に知ってもらいたい」(事務局)という。

(函館支局長 井上達也)

[日本経済新聞夕刊2017年7月18日付]

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